第六話 確かめるなら何度でも
ふと、焚き火の音が聞こえ、サタは目を覚ました。
「ミラ…?」
隣ですやすやと寝ているミラを見つけると、今までの状況が一気に頭に蘇ってくる。あんなにも燃えていたビルは一気に闇に隠れ、その周りにあった家達も、もう何処にあるのかすら分からない。もしくは、それらが分からない程遠くまでアシが運んでくれたとか。そこまで考えて初めて、サタはアシの存在を探した。
「アシ?」
「何です?」
案外早く帰ってきた返事に思わず立ち上がると、サタの後ろにはガラクタを持ったアシがいた。
「ごめん、驚かせちゃいました?」
アシはそう言ってガラクタを持ったままランタンに火を灯すと、勿体無いからつけなかったんだよと軽い言い訳を添えた。
「何を持ってるの?」
「あぁこれですか?これは、ミラさんがビルの中で持ってたやつで…大切そうだったし持ってきました。」
「それが?」
「えぇ。」
まるでガラクタ。というかガラクタ。もうガラクタ。両手からギリギリはみ出す程度の一つのガラクタの塊が、サタの前に差し出される。
「これって…何?」
「分から無いんですよ。墨がついてるからなのでしょうか…洗ってみます?」
「洗うって言っても水が、」
とサタが言いかけると、アシがサタの目の前で指差しをする。その先からは微かに波の音がし、そういえば潮の匂いも漂っている。サタはやっと自分がさっきの海辺まで後戻りした事を認識し、あぁと頭を垂れた。特に報酬が無かったから良いものの、これで何かを見つけていたとなれば飛んだ無駄足である。さっきまでの方向とは被らない様に一応進路先に目星をつけておくと、ガラクタを手に海に向かっていくアシを急いで止めに入った。
「何ですか?」
「いや、駄目だよ海で洗っちゃ。」
アシはサタの方と見ようと振り返ったが、一方サタの方はアシの肩に手を置こうとしていた所為で、見てて気持ちいくらいにすれ違う二人であった。
「あぁすいません!」
「大丈夫だよ…。そうそう、塩水とガラクタは相性がすごく悪い。今の自分達の様にね。」
と顔を砂に埋めながら言うサタに、アシは申し訳無いと何度も謝罪をした。実はその度にサタは大丈夫と言っているのだが、それは砂の奥底に消えていってしまっている。
「ミラさんが起きるまで待つか…。」
ランタンの火はもうつけてしまっているんだから、と二人はランタンをミラの側に置き、二人は海辺を歩き出す。ミラが起きた時の為に砂場にメモを残している。いざとなれば声も聞こえるから、何の問題も無いだろう。一つ気になる事があるとすれば、ミラの容態である。一時は安静になったと思えば、ついさっきから、小さく唸り声が鳴り出した。
「何か悪夢を見ているんですかね?」
「…ランタンを遠ざけてあげよう。火だと勘違いして思い出しているのかも。」
「あー、成る程。」
アシはそんな事思いもしなかった。人間ならではの発想なのか、と感心するアシであったが、かつては自分にも人間の身体があったのだからと直ぐに訂正する。
そして二人は出来るだけミラから離れない程度に散歩をしていると、会話の話題はさっきのビルについて移り変わった。
「それで僕は気を失ったんだけど、ミラはなんでビルに戻ったの?」
「さぁ…何の思い入れがあったのでしょうね…。ミラさんは二階にいて、誰かいるの、と叫んでました。もしかしたら、誰かいたというサタの発言に心配になったのかもしれません。」
「えっ、」
自分の所為でミラがビルへ戻ってしまったのかと焦り、思わず落としかけたランタンをアシが支える。
「でも分かりませんよ、疑問点はいくつかあります。個人的なやつも含めてですけど。」
そう言ってアシは立ち止まり、サタもそれにならって足を止めた。
「例えば?」
「例えば、何故あのタイミングでビルに戻ろうとしたのか。一般的に考えて、火をも恐れずしてビルの中が気になっていたのなら、あれだけの時間が開く前から入っている筈です。ミラさんがいたのは一階、僕が近付こうとすると、二階に上がろうとしました。その時に気を失って、今の状態。別の事をしていたにせよ、何故一階にあんなに時間を掛けていたのかも気になります。」
それは、確かにアシの言う通りだ。アシの考察も最もだし、何よりサタの方にもミラを怪しむ点というのはあった。証拠は無く感情的な案件から発言はしなかったが、サタが思うにミラはそんなに優柔不断では無いし、人情深くない。悪く聞こえるかもしれないが、長らく付き合ってきたサタの直感はあながち間違っては無いと思う。
「じゃあミラは何か隠し事があるんだね?」
「そうかもしれない、って事ですよ。」
アシが納得いかない様な顔で俯く。その横顔に再び潮風が吹き付け、ランタンが描く輪郭が大きく揺らいだ。
「…ねぇ、もう一度戻ってみない?」
「僕達だけでですか?」
「うん。」
今頃火は消えてるし、それなら中の探索も細かくできるかもしれない。ミラが知られたくない事が暴かれてしまいミラが傷つく可能性だってあるけど、これから一緒に行動していけばいずれは分かる事だと思う。ミラも今は眠ってるんだし、丁度良いじゃないか。
「…分かりました。行くなら直ぐに済ましちゃいましょう。」
そう言ってアシとサタは顔を見合わせると、急いでビルの元へ走って行った。
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