第16話 待っていてください
お方の下へ来て目を治してもらい、それから3日が経った。
彼が目覚めるのを待つ間に魔法の扱い方などを教えてもらっていたのだが、彼が目覚める気配がない。
正直日数がギリギリだ。それこそ今すぐにでも旅立たねば間に合わないのではなかろうかと言った感じである。
「彼が目覚める気配が一向にしないのですが、本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫と言いたいが、まだ目覚めないというのは正直おかしい。もう一度見てみよう」
私の疑問に大丈夫だと答える事が出来ないお方もおかしいと感じたのか、魔力で彼を包み込むとゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「やられた。私の初代が魔力で干渉して目覚めないようにしているようだ。これではいつまで経っても彼が目覚める事はない」
「聞きたいのですが、干渉がなくなれば彼は目覚めますか?」
「干渉がなくなれば目覚めるというよりも、干渉がある限りいつまで経っても目覚める事はない、が正しだろう」
「では目覚めない可能性もあるという事ですか?」
「そうなる」
これは本当のように感じる。嘘ではなさそうだ。
「はあ、では私は一人で向かう事にします。魔法を使えば馬車より早く移動できるのですよね」
「私が教えた通りに魔法を扱えるならばな。まあ貴女なら大丈夫だろう」
「では早速行きたいと思いますので、彼を頼んでもいいですか?」
「ああ、任せておけ」
私は彼の手を握り、そして約束をする。
待っていてください、必ず私が貴方を目覚めさせてみせますから。約束です。
私が心の中で彼と約束をするとわずかに彼の手に力が入ったような気がした。
それを感じると私は少しばかり顔が緩み、微笑んでしまう。
だが時間が迫っていることを思い出し、後ろ髪を引かれながらも出発することにする。
老婆がいる町までの地図と食料はすべてお方が準備してくれた。
お金などに関しては必要ないと言われた。私は魔法使い以外には見えないから持っていても仕方ないと。
まあ魔法使いは希少で、殆どが都市部にいるので出会う事はないが、それってどうなの? と思ってしまった。
目が見えるようになって初めての外が一人で、しかも老婆に会うための旅路になるとは思わなかった。それも急ぎだ。
魔法も教わったばかりで不安はあるがなんとかなるだろう。
さあ、私の初めての一人旅。今度こそ寝物語のような出来事が私を待っている、感じがしないけど出発だ。
魔力を自身の体を包み込むように操り、体すべてを補強する。そして私は宙に浮く。
上空にいる私の前には全てが広がっている。
待っていてください、すぐに戻ってきますから。
私は全てを置き去りにするように飛び立った。
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