第15話 楽観的

「未来を予知でき、過去に戻る事が出来る存在が普通だと思っていたのかい?」


 確かに、冷静に考えれば普通では無い。しかし魔法なら可能なんじゃないかと思ってしまうのは無知だからなんだろうな。


「言われて初めて普通では無いと理解しました。ですが何がどうなれば殺してくれとなるのでしょうか? 出来る事ならば私は人を殺めたくはないのですが」

「家族を捨て、大事なお爺さんとの約束を破ってしまった私は死ねなくなったんだ。正確には何度死のうとも転生し蘇る。それも毎回別人としてだ。そして私が転生した事のある人物は私が行った行動をなぞるように生活するんだ」


 私としては色々な人として生きていくことが出来るのは楽しそうで羨ましいのだけど。


「分かってないようだね。私が死ねばそこで世界は終わるって事なんだよ」

「世界が終わるですか?」

「そう、仮に今私が死ねば貴女も死ぬという事さ。そして私と共にまたやり直しだ。まあ記憶を引き継ぐことが可能なのは私だけだから実感はないだろうね」

「今死ぬのはやめてほしいですね。死ぬならせめて彼とお花をみた後でお願いします」

「はあ、私の話を聞いてそう言ってくるなんて本当におかしな人だな」

「そう言われましても、話を聞く限りでは、私が殺したとしてもまた人生のやり直しになるのではないですか?」


 そう、老衰や自殺と同じように、私が殺しても同じとしか思えない。


「私が言いたいのはこの呪いから解放して欲しいという事だ。初めの私を殺して欲しいんだ。まだ力を使っていない私を」

「それってあの老婆を私に殺せってことですか?」

「お願いだ盲目の魔女、あれを殺せるのは貴女しかいないんだ。あれに魔法を使わせないでくれ。そしてこの地獄のような転生を繰り返す人生を止めてくれ」

「もしかして自分で殺そうとしたことがあったんですか?」


 今のお方ほど力があるのであればあの老婆を殺すことは可能だと思うのだけど、私に頼み込むという事は無理だったのかな。


「ある。だが無理だった。そして思い出したのだ。君があれを殺しうる力を持っていると」

「思い出した? 殺しうる力とは?」

「私にはもう朧気だが、約束をしただろう?彼との約束を果たせと」

「はい、それは覚えていますがそれがなにか?」

「その時に見た君の未来は二つあった。一つは何もない、私がただ死んでしまい世界が終わるもの。そしてもう一つが……」

「もう一つが?」

「すまない、言えなくなった」

「へ? 言えなくなった?」

「初めの私が止めてきた。すまないがこれ以上は無理だ」


 どういう事? 転生したことのある人物はお方の行動をなぞるから、このタイミングで止めてくる事が本当にありえるの?

 というかどうやって止めたのだろうか。むしろそっちのほうが恐ろしいのだけど。


「殺そうとして無理だったと言っただろう。普通なら何度も繰り返せば殺す事なんて可能なはずだ。だが初めの私だけは別だった。あれは自分の意思でなぞっているんだ。あれはなぞるだけの人形ではなかったんだ」

「ということは同時に二つの意思が別個にあるという事ですか?」

「そういう事になる」


 うーん、言ってることがよく分からない。それって本当に転生してる事になるんだろうか?


「ちなみになんですが、あの老婆はいつ頃転生するので?」

「1週間後だ。出来ればそれまでに殺して欲しい。頼む」


 1週間後か。距離を考えるとそこまで逼迫してはなさそうだ。


「頼まれても困るのですが、目を治していただいた御恩がありますので、とりあえず老婆の下へ一度お話をしに行こうと思います。それでどうでしょうか?」

「そうか、わかった。それで私は構わない」

「日数もありますので彼が目覚めるのを待ちたいと思います。一緒に行けばその後一緒にお花を見る事もできるでしょうから」


 そうだ、せっかく目が見えるようになり、そして約束の地の近くまで行けるなら一緒に行きたい。

 この時私は楽観視していた。まさかこの先で別れが待っているなんて考えてすらいなかったのだ。

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