第14話 普通では無い
涙を流しながら殺してというお方の言葉に混乱する私。
殺してという言葉もそうだが、私の目が見えるようになる前と後では言っている事が違うからだ。
「ちょっと待ってください。いきなりの事で話についていけません」
「そう、だな。すまないね。私ももう少し詳しく話すべきだった」
いや、詳しくとかそういう問題ではなくて、殺すのはちょっと……。
「まず初めになんですが、私の目が見えるようになる前後で話の内容が違うのは何故ですか? そしてどちらが正しいのですか?」
「目が見えるようになった後だよ。その前は嘘というか、それっぽい事を言っただけだ。理由は簡単で、彼に私の事について話していないから。彼は本当に貴女のお父さんが私の恩人で、2年前に亡くなったのでその恩を返すために探し出していたと思っている」
「彼は知らなかったのですね。ですが何故彼には教えず、私には教えたのですか? 普通彼に本当の事を教えて、私には黙っているのではありませんか?」
「彼は普通だから言っても無駄だと思ったから、かな」
「普通? 彼は十分変わっていると思うのですが。それにそれだと私は普通では無いという事になります」
そう、彼は変わっている。いくら探していたとしても、私に話しかけてくるくらいには。
「彼は普通だよ。普通の魔法使いだ。でも貴女は違う。普通私が少し前に会った老婆だと信じないし、今も冷静に私と話したりしない」
「普通の魔法使い? 魔法使いという時点で普通ではないと思いますし、彼は私に話しかけてくるような変わり者ですよ?」
「確かに魔法使いは一般的に多くない。その殆どが都市部に集まっていたりするから中々出会う事もないだろう。だから貴女は今まで私と彼、そしてお母さんとしか話したことが無かった。違うかい?」
「そんな事は……確かに話しかけても無視される事はありましたが……」
「それは無視されていたんじゃない。見えていなかったんだよ。存在を認識されていなかったんだ」
「そんな……ですが私への誹謗中傷でお母さんは衰弱していき、亡くなりました」
「それは貴女への誹謗中傷ではない。誰にも見えない、存在すら認識出来ない存在をあたかもいるように振舞っているおかしな人間だとお母さんが中傷されていたんだ。普通の人にはさぞ気持ち悪く見えた事だろう」
「嘘です! ならなんで彼や貴女は私の事が見えているのですか。おかしいでしょう」
「簡単だよ。貴女は魔法使いにしか見る事が出来ないからだ。目が見えないから盲目の魔女というのではない。他人から自分を見えなくする、周りを盲目にさせてしまうからその名が付いたんだ。そして盲目の魔女にはもう一つ能力がある。それはあらゆるものを感じる事が出来るというもの。心当たりがあるんじゃないかい?」
周りを盲目にさせる。あらゆるものを感じる事が出来る。
言われてみると思い当たる節が沢山ある。
彼と出会う前、お母さん以外の人と話した事は無い。そうか、使っている所を感じた事は無かったけどお母さんは魔法使いだったのか。
使っている所を感じた事、か。確かに色々なものを今までそう考えてきた。いや感じてきた。
人の感情なんて特に感じてきた。考えも全てではないが、ある程度感じられ、人の話を聞いた時はそれが嘘かどうかも分かっていた。
だからお母さんが自殺したと話し声が聞こえた時はそれが本当なのだと信じた。
そうだ、お母さんの自殺については私に話しかけて来たのではなく、他人の会話で知ったんだった。本当に私は見えていなかったんだ。
「その顔を見るに、心当たりがありそうだね」
「心当たりはあります。ただ一つだけ、貴女の感情というか、言葉の真贋がたまに感じ取る事だけが出来ないのは何故でしょうか」
「言っただろう? 普通では無いのは貴女だけじゃないんだよ」
彼女は笑いながら、しかし悲しそうに言うのだった。
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