第13話 お方の願い
ある所に一人の老婆がいた。彼女には子供がおり、だが一緒には暮らしてはいなかった。
旦那も亡くなり数年経ったころ、隣町に住む息子夫婦から手紙が届く。
そこには私たちと一緒に暮らさないかと書かれていた。
老婆は亡くなった旦那との思い出が残るこの街を出る事に抵抗があったものの、その提案をありがたく受ける事にした。
息子夫婦は老婆を優しく迎え入れ、邪険にされることもなく幸せに暮らしていた。
老婆は旦那の眠る街へ月命日は必ず出掛け、墓参りをしていた。
その時は必ず息子夫婦、または孫達の誰かが必ずついて行っていたが、その日は誰も一緒に行くことが出来なかった。
もちろん家族は初め止めた。もういい年で、何かあったらどうするのかと。
家族の気持ちを嬉しく思いながらも、老婆は首を縦にすることはなかった。
家族は何故そんなにも頑なに墓参りをしようとするのか、少し日程をずらせばいいではないかと問う。
「お爺さんと約束をしたから」
それだけを告げるが、どんな約束かは教えはしなかった。
老婆の意思が固く、止める事はかなわないと分かると家族は諦める事にした。
何故なら老婆は魔法を使う事が出来たからだ。自身の身を守る事くらいは出来るだろうと家族の誰もが思った。
老婆は一人で街へと戻り、墓参りを終え、その日は宿に泊まる事にした。
次の日、街を出立し、町へと戻る。
だがいつもは家族がすべてを手配していたことを忘れていた。老婆は当たり前のように馬車に乗れるものと思っていたが、前日までに予約していないと乗れないと言われ乗車拒否を受けてしまった。
馬車での移動でしか街から出た事の無かった老婆はどうしたものかと思い、しかし少しだけ楽観視してしまっていた。
何を思ったのか、歩いて帰る事を選択したのだ。魔法が使える自分ならば問題無いだろうと考えてしまったのだ。
しかし意外と順調で、早朝から出発したので昼前にはそれなりの場所まで進むことが出来ており、もう少し進んだ場所には休憩所があるところまで来ていた。
普通の老婆であればこんなところまでこんなペースで来ることは出来ないだろう。魔法が使える自分だからこそここまで来れたのだと思っていた時だった。
老婆は足を取られ転んでしまった。
普通ならばこんなところまで来ることは老婆が思っているよりも大変で、実は体力自慢の若者くらいにかしか無理な距離だった。
そんな場所へ普段あまり運動をしない老婆が魔法を使ったとはいえ、短時間で移動してきたのだ。本人が思っているよりも体への負担がかかっていた。
転んでしまった老婆は足を捻り、痛みで歩くことが出来なくなってしまった。
道中いくつか馬車を見かけた事を思い出し、轢かれないようになんとか道からそれ休憩をするが痛みが引くことは無い。
無理をしてでも進むべきか悩んでいると一つの馬車が近くで止まるのが見えた。
中からは一人の男性が現れ、老婆の元まで近寄ると、心配させまいと優しく声をかけながら応急処置を行った。
そしてよければ馬車に乗ってくれと言われ、少しためらいながらも乗せてもらう事にした。
馬車の中には一人の女性がいた。老婆は彼女を見たときに感じてしまった。
盲目のこの女性は私と同じで普通では無い、と。
町までの道中、彼と彼女は老婆に優しく接していた。
だからだろうか、老婆は誰にも教えた事のない魔法を使ってしまった。
それは未来を読む魔法。そして過去へ転生する魔法を。
そしてお爺さんとの約束を破ってしまった。
「やっと貴女と会う事が出来た。私は貴女ともう一度出会う為に何度も何度も、沢山の人になってきたんだ。そしてやっと彼と出会い、君を見つける事が出来た。そして私は君の願いを叶える為に力を蓄える事が出来た」
老婆、いや、お方は涙を流しながら続ける。
「盲目の魔女。私のお願いを聞いて欲しい」
「あの時のお婆さんだったのですか? 私にはこの目を治してもらったという恩があります。できうる限りの事をさせてください」
悲痛な声でお方は言った。
「私を殺して」と。
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