第12話 力の開放

 彼が何故倒れているの?

 いや今はそんな事を考えている場合ではない!


「だ、大丈夫ですか!?」


 私は急ぎ彼の下へとしゃがみ込む。だが返事がない。


「大丈夫ではないよ」


 私の後ろから聞こえてきたのはお方の声。


「どういうことですか? はやく彼を助けてください!」

「代償だからだ。強力な魔法には代償が付き物なんだよ。そして私が君の望みを叶えるのは1度までだ。だからその望みを私は叶える事はない」

「そんな! ではどうすれば助けられるかだけでも教えてください! お願いします!」

「私が代償も無くそんな事をするはずがないだろう?」

「代償なら払います! 私の目を捧げますからお願いします!」

「それじゃあ全然足りないよ」

「何故ですか! 彼が倒れたのは私の目を治したからならば、私の目を捧げれば彼が助かるのではないのですか!?」

「助からない。何故なら君のお父さんへの恩があるからこそ代償を彼だけに抑えてあげたんだからね。ならばそれ相応の物がさらに必要だろう?」


 そんな、それ相応の物なんて私に用意出来るはずがない。

 私が絶望に打ちひしがれていると、何かが私の中でカチリと開くような音を感じた。

 開いた瞬間、それは私を包み込み、そしてまた私の中へと戻っていく。

 今のは何?


「はあ……良かった。成功だ。これで私は……」


 先ほどまでの威圧感はどこへ行ったのか。お方はひどく安堵し、力を抜いているように感じられる。


「そう怪訝そうにするな。今君の中から現れ、そして戻っていったものは君の魔力だ」

「それがなんだというのですか?」

「私は魔力を使い、魔法で君の目を治した。ただ、私だけの魔力で君を治したのではない。彼の魔力も使ったんだ。だから今彼は魔力が殆どない状態、というわけさ」

「ならば彼を助ける魔法をはやく教えてください! どうすればいいんですか!」

「そう焦るな。彼は単なる魔力欠乏で倒れただけだよ。魔力を使いすぎると気を失う事があるんだ。今回は一気に魔力を奪われた事で意識を持っていかれたんだよ。だから魔力が戻れば時期目も覚める」


 魔力欠乏? 初めて聞いた言葉に理解が追い付かない。彼の魔力を使ったからなんだというのか。

 しかしお方はひどく落ち着いている様子だ。

 そして彼は時期に目覚めると教えてくれた。


「魔力を彼に入れて少しでも早く回復させることは出来ないのですか?」

「出来なくはないが、おすすめはしない。魔力操作も練習していない君がいきなりやれば回復どころか逆に破壊してしまいかねない」

「では待つしかないのですね……」

「その通りだ。まあ2、3日もすれば目覚めるさ」


 お方は申し訳なさそうな顔をしながら彼へと近づき、そっと持ち上げると近くの柔らかな、おそらくベッドにそっと横たえた。

 その姿は優しさに包まれており、彼を大切にしているのだろうことが分かる。そう感じられた。


「それよりもすまなかったね。君の力を開放するためではあったが酷いことを言ったかもしれない。申し訳なかった」


 こちらへ振り向いたお方が頭を下げ謝罪の言葉を口にされてしまう。


「いえ、彼が無事ならばもういいです。それよりも私の力とはどういう事でしょうか?」


 彼が無事ならばそんな事は些事だ。

 ならば今必要なことは何故あんな事をしたのか。そして私の力とはなんなのか。

 それを私は知りたい。


 私の言葉に彼女はゆっくりと昔話を紡ぎ出した。

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