第11話 長くもなくあっけない
「長くなる、と言っても簡単に言えば、あー、君のお父さんが私の恩人なんだよ」
「私のお父さん……ですか?」
お父さんは私が物心つく前に死んだとお母さんから聞かされている。
「私が困っていたところを助けてもらった。そう理解してくれていればいい。あまり誰かに話すような内容でもないのでね」
「はあ……」
「でだ、君のお父さんが大体2年前に亡くなった」
「へ? 私が物心つく前にお父さんは死んだとお母さんから聞いています。人違いではないですか?」
ここまで来てまさか人違いだなんて私はどうしたらいいの。
「なるほど? そう聞かされていたのか。人違いではないよ。死んだと教えられたのは多分お母さんなりの優しさだろうな」
お母さんなりの優しさか。確かにお母さんはいつも私に優しかった。
「話を戻すが、実は君のお父さんと私は約束をしていたんだ。君のお父さんに何かあった時、娘である君の助けになるとね」
「助けですか? もしかして私はここで生活をするのですか?」
「それでも構わないんだが、どうせなら違うものがいいだろうと思っている。一つだけなんでも叶えてあげよう。ここで一生暮らすでもいいし、彼と結婚でもいい」
「……本当に何でも叶えてもらえるのですか?」
「ああ、一つだけだがなんでも叶えてあげるとも。これでも私は結構凄いんだよ」
「でしたら一つだけ、私の目を見えるようにしてください」
こんなチャンスはきっと2度とない。ならば絶対に逃さない。ここで逃せば私の目は2度と見る事がかなわない。そう感じられた。
だから私は迷うことなく願いを告げる。
それを愉快そうに感じるお方が言葉を継いでくる。
「いいよ。さっそく今から治すかい?」
「お願いします」
「分かった。先に言っておくが、治した後はゆっくり目を開けるように」
「わかりました」
「では……<エクストラヒール>。これで見えるようになっているはずだ」
魔法の発動を感じると、以前彼が扱っていた時とは比べ物にならない圧を感じる。
どれほど強力な魔法を発動したのだろうか。体の中に私ではない何かが入ってきたと強く感じられる。
そしてそれと同時にドサッという音も聞こえたが、お方の声に従いゆっくりと目を開ける。
「見えるかい? 私が君の目を治したんだよ」
私の目の前には恐らく女性? のお方がいる。声を聞く限り女性なのだろう。初めて見る事が出来たので性別の違いが声でしか判断できない。
「はい、その、女性でいいのですよね? 人を見たのは初めてで」
「人を見たのは、か。まあいい、その通り私は女だよ」
「それで彼はどこでしょうか? 目が見えるようになる前までは近くにいたと感じていたのですが」
まだはっきりとは見えないが視界に映る範囲に他の存在が見当たらない。
「ああ、そこにいるよ」
そう言って私の斜め後ろ、の床の方へと指をさす。そこには彼が倒れていた。
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