第10話 変わったお方
朝、いつもの馬車が迎えに来た。
目的地に着いたのだから馬車はもういらないと思うのだけど、盲目の私に気遣ってギリギリまで馬車を使ってくれるそうだ。
「着きましたよ。ここからは少しだけ歩きます」
「分かりました」
彼の言葉に応え、彼は手を差し出し私の手を握りゆっくりと馬車から降ろしてくれる。
「御者の方、ここまでありがとうございました」
私は御者の方へお礼を伝える。彼も共にお礼を伝えると御者の方はこちらに返事を返してくれた
「え、ああ、どういたしまして?」
気の抜けた返事がおかしくてつい笑いそうになる。なんでそこで疑問形になるのだろうか。
この反応はもしかして御者の方へお礼を伝える人は少ないのかもしれない。
彼も少し笑っていて、御者の方も少し恥ずかしそうにしている感じがしたのが印象的だった。
「では行きましょうか」と言う彼の言葉に従い、私は一歩を踏み出す。
これからどんな方に会うのだろう。きっと偉い方だとは思うのだけど、いまいち想像が出来ない。
お方について話していた彼からは悪い感じがしなかった。むしろ良い人だといった感じをさせていた。
だからこそ私は気になってしまう。彼を使いに出してまで何故私に会いたいと思っているのかを。
ようやく分かる。その理由を早く知りたい。
コツ、コツ、と歩く音が響いている。周りはとても静かで、人がいる感じもせず、音が反射するような場所みたいだ。
私と彼の足音しかしておらず、世界に二人だけしか居なくなってしまったのではないか、そんな気持ちになるほどだ。
彼の足音が止み、それに倣い私も足を止める。
そしてノックの音がしたかと思うと、彼が無遠慮に扉を開ける音がした。
彼にしては珍しいなと思うと中から若い女性の声が聞こえた。
「まだ返事してないんだけど?」
「どうせ返事をするつもりなんて無かったでしょう?」
「それはそうだけども、それよりもそのお嬢さんが私の探し物であってるのかい?」
「はい、彼女になります」
「えっと、その……」
話が勝手に進み、どうすればいいのか分からずつい声を出してしまった。
「ああ、すまないね。私がそいつを使って君を探させ、ここに連れてくるように頼んだんだよ」
「そう、だったのですね。それでその、私をここに連れてきた理由をお聞かせ貰えるのですよね?」
「いきなり本題だね。だがそうだね、少し長くなるからとりあえずそこに座るといい」
彼女がそう言うと、彼が私の下に椅子を用意してくれた。
しかし長くなるのか。まだお昼前で時間もあるから問題ないだろう。
だから私は頷き、彼女に話を促した。
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