第9話 いつも通り

 謎の老婆と別れて数日、いくつかの町や村を通り過ぎた。その間、この馬車に乗る人はいなかった。本当に目的地に行く人は馬車を使う事が少ないのだろう。

 私のイメージしていた旅路は全くもって現実味の無い、物語上の物だったことが分かった。


 魔物は彼が魔法で倒した一度しか出てこなかったし、困っていた人物も老婆一人。

 魔物や野盗に襲われた馬車を助けるとお姫様や貴族の令嬢がいるなんてことは一切無かった。そもそも襲われていた馬車がない。


「どうされました?」

「いえ、ここまでの道中での出来事が魔物1匹を貴方が魔法で倒した事とお婆さんへの応急処置程度しかなかったなと思って。寝物語だともっと色々な出来事に巻き込まれるので、現実は何てこと無いんだなと」

「なるほど。ですが魔物はともかく、道中でケガ人を助けて馬車に乗せることは普通ではありえない事なのですよ」

「そうなんですか?」

「馬車を止めて救助する間に野盗に囲まれたり、そもそも救助対象が実は野盗で、近くによった瞬間に襲われると言ったことも珍しくありません。馬車内で襲われる可能性もありますしね」


 ケガ人を装ったりするなんて考えもしなかった。陰に隠れて待ち伏せ、いきなり襲い掛かってくるだけではないのだ。

 私が思っていたよりもずっと狡猾だ。


「では何故あのお婆さんを救助して馬車に乗せたのですか?」

「何故でしょうか。実は私もよく分かっていません。正直かなり迂闊な事をしたと今更ながらに思っています。ただ、彼女を助けなければと思った、からですかね」

「確かに話を聞いた限りではかなり迂闊だったかもしれませんが、実際は本当に困ったお婆さんだったわけですから良かったですね」

「そう言って頂けると助かります。ですが今後は気を付けたいと思います」


 彼の声は本当に申し訳ないと言った感じで、本人も本当に反省している感じがした。

 私はいいが、彼に何かあるのは嫌なので今後はやめてもらいたいなと思う。


「そろそろ目的地に着きます。今日の所は一度休み、明日会う事になりますがよろしいでしょうか?」

「ええ、私もいきなり会うよりも一度落ち着きたいのでそちらの方がありがたいです」

「ありがとうございます。ではそのようにしますね」


 もうすぐ到着。私の旅路が終わる。いえ、これはまだ始まったばかりだ。

 どんな方に会うかは分からない。

 でもその後は決めている。それは彼と共に行った公園、そこで一緒に花を見るために目が見えるようにする事。


 今までは死んだように同じ場所で生き続ける事しか考えてこなかった。

 でも彼と出会い、短期間だが共に過ごして目標が出来た。これは私にとっては大きなことだ。だから必ず叶えようと思う。


「ではいつものように宿をとりましょう」


 そういって彼は御者の人へ伝える。

 そしていつも通り宿へ到着し、いつものように彼と宿に泊まる。


 明日はどんな方に会うのだろう。出来る事なら怖かったり意地の悪い人じゃないといいな。

 なんてことを思いながら私は休む事にした。

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