第8話 優先順位
本当に老婆は町に着くとふらりと町の中へ消えていった。
彼が家まで送ると言ったのだが断られてしまい、仕方なくこちらも折れた形だ。
「あのお婆さんは本当に大丈夫なのでしょうか? ケガの程度は私にはわからなかったのですが、道中で動けなくなるほどのケガだったのですよね?」
「そうですね、ケガと言っても休み休みでしたら問題ないといった感じでしたので大丈夫かと。それに私の最優先は貴女ですので、あのお婆さんに断られてしまえば仕方ありません」
休み休みなら大丈夫と言われても結構辛いと思うのだけど。
しかし彼の最優先を考えると仕方ない、か。
彼の最優先は私。ではなくて、私をお方と呼ばれる人の下へ送り届けることだ。
私は盲目、一人にするには不安で、かといって一緒に老婆を家まで送り届けるには足手まといだ。
「そうですね、ではお婆さんが無事に家まで辿り着けることを祈っておきます」
「私も彼女が無事に辿り着けることを祈っておきましょう」
「しかし変わったお婆さんでしたね。なぜあんな場所を一人でいたのでしょうか? 近くであったり、道中に馬車などの乗り物は無かったのですよね?」
そう、あの老婆は街からこの町へと続く道中、おそらく街から3割ほど進んだ場所に一人でいたそうなのだ。どこにも乗り物の痕跡もなかったと聞かされたときはかなり驚かされた。
「ええ、その通り何もありませんでした。仮にですが、馬で移動中に振り落とされたとしてもその痕跡すらありませんでした。そもそも彼女のケガは転んだ事による捻挫でした。程度としては重度でしたが、振り落とされたときにするケガではありません」
「という事は本当に一人で歩いていたのですね。かなり元気なお婆さんと言うほかありません」
あの老婆からはかなり強い力を感じた事を思い出す。それを考えれば一人で街から町までを一人で歩いて移動というのも無理ではないのかもしれない。
「そういえば彼女から予言のようなものを言われていましたね」
「はい、貴方との約束を果たすようにと。それも今後行う約束だそうです」
「今後行う約束ですか。たしかそう遠くない未来とも言っていましたよね」
「近いうちと言ってました。どんな約束をするのでしょうか? とても大切な約束って漠然としすぎてて想像できないですよ」
「そうですね、近いうちに大切な約束と言われても困りますね。でもその時が本当に来るとは限りません。当たり前ですが、未来とは簡単に見ることなど出来ませんから」
「ですね。あまり囚われすぎるのも良くないかもです。もしも本当に約束をすることがあればその時考える程度にしておきます」
「ええ、私もその程度にしておきます」
この時、私と彼はあまり深く捉えていなかった。老婆の言っていたことが現実に起こり、そして私が彼との約束をどんな事をしても果たすべく血を流す事になるとは知らずに……。
なんて適当な事を考えながら私は今日も休むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます