第5話 知識

 今はどのような場所を移動しているのだろうか。

 今日は今までと違い馬車の揺れが少ない。


「馬車の揺れが少ないですが、もしかして今通っている場所は道が綺麗なのですか?」

「その通りです。この街道は大きな街と街を結ぶ大切な道で、魔法使いが定期的に均しているのですよ」

「そうだったのですね。しかし魔法とは万能なのですね。まさか道を綺麗に出来るなんて知りませんでした。てっきり魔物を倒すものとばかり思っていました」

「え? ……あ、いやすみません。そうですね、魔法は万能だと私も思います。例えば建物を建てる時にも使ったりしますよ。重いものを魔法で一時的に軽くすることで持ち運びが楽になりますので重宝されてるようです」

「そうなのですね。しかし重いものを軽くですか。それは買い物が楽になりそうですね」

「買い物ですか。確かに楽になりそうです。今度機会があれば使ってみますね」


 やはり綺麗に均された道だったようだ。ただ均すやり方が魔法だとは思わなかったけど。

 彼は私が魔法の使い方について詳しくなかった事に疑問を持つが、すぐに謝ってきた。私が盲目で、今まで魔法を見たり知ったりする環境だったことを思い出したのだろう。

 彼はマズいといった感じだったが、私は別に謝られるような事とは思っていないので気にしない。


 むしろ物を軽くできる魔法があるなんて知らなかった。

 つい自分が楽になる使い方を口に出してしまったが、彼は否定やバカにしたりせず、むしろ、そんな使い方があったか、といった感じだ。

 意外と彼にも俗な部分があるんだなと失礼ながら思ってしまった。


「先ほど大きな街と街を結ぶ道だと言ってましたが、もしかして昨日泊まった街は大きかったのですか?」

「ええ、この国で5番目の広さと言ったところですね」

「5番目ですか。5番目……」

「5番目がどうされました?」


 彼の答えに私が考え込んでしまったので、彼は不思議そうに聞いてくる。


「いえ、大きいというのは分かるのですが、冷静に考えるとそもそも私は普通の街や小さな街も知りません。なので5番目と言われて全然想像が出来なかったんです。答えてもらったのにすみません」

「なるほど、謝らなくて大丈夫ですよ。正直私も全ての街を把握しているわけではありませんし、仮に立ち寄ったとしても見て回ることなどあまりありませんからね。大きいという事しか分からないという点では私も同じですからお気にせず」


 そうか、訪れたとしても見て回ったりすることをしなければ把握する事は難しいのかもしれない。

 仮に聞いていたとしても、私のように見えなかったり見たことがなければなおさらだ。

 彼も知識としては知っていたのだろうが、経験しないと分からないものがあるということなんだな、なんて思ってしまう。


「ちなみに次に訪れる街はこの国で3番目の大きさだそうですよ。どれくらい大きいかは正直分かりませんがね」


 彼は自虐的に、だけど楽しそうに次の街について教えてくれた。


「少しお願いがあるのですが、いいでしょうか?」


 私がお願いしたい事があると聞いて彼は怪訝そうな感じだ。


「どうされました? 私に可能な事ならなんでもおっしゃってください」

「その、次に訪れるという街なんですけど、少しだけ散策してみたいです。ダメでしょうか?」


 私のお願いに彼はどうしたものかと言った雰囲気を出している事が感じられる。


「うーん、ちょっと待ってくださいね」


 彼はそれだけを告げて私から離れる。どうやら御者と話しているようだ。

 戻ってきた彼はホッとした感じだ。


「御者の方に頼んでみたら一日だけなら大丈夫だそうです。なので少し散策しましょうか」

「ありがたいのですが大丈夫なのですか?御者の方もお仕事でしょうし、他の馬車に乗るとばかり思っていたのですが」

「そろそろ馬を一度ゆっくり休ませたかったそうです。移動時も定期的に休ませてはいますが必要な事だそうですからタイミングがよかったですね」

「そういう事でしたらいいのですが、確かにタイミングが良かったかもしれません」


 そうか、定期的に馬車を止めていたのは御者や乗車客の休憩だけではなかったのか。確かに馬にも休憩は必要で、むしろ一番休憩が必要な存在だと気づかされた。


 私は次に訪れるという街がどんな場所になるのだろうかと思いを馳せるのだった。

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