第4話 普通とは
使える人がいるという事は知っていた。
でも私が知っている限りでは一人もいなかった。
なんて恐ろしく、しかし温かく、それでいて凄いもの。
「もしかして先ほど感じたのは魔法というものだったのでしょうか?」
「ええ、<ファイアーアロー>という魔法です。弱い相手に丁度いいのです」
「どんなものかは見る事が出来ないので分かりませんが、凄い方だったのですね」
彼は私の言葉に少しだけ照れくさそうにしている感じだ。
「初球魔法の一つなのでそう凄くはないですよ。ですがその言葉はありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございます」
御者の人がこちらを訝しげに見ている感じがする。
魔法を使える人は少ないと聞いたことがあるので、彼を珍しい者だと思っているのかもしれない。どう接したらいいのかと悩んでいる感じだ。
「兄さん、魔物を倒してくれたのはいいが、道を塞いでどうするよ」
「ちょっと待ってください。すぐどかせるので」
どうも先ほどの魔法、<ファイアーアロー>で魔物を倒したはいいが、その魔物が行く手を阻んでしまったようだ。
「ええっと、<フロート>で浮かせて街道横にずらしてっと、<ピットフォール>でで作った穴に落として、<ベリィ>で埋めれば大丈夫ですね。よし、かなり深くに埋めたので動物や魔物が掘り起こしに来ることもないでしょう」
「細身なのに兄さんは凄いんだな」
沢山の魔法を連続で使ったようで、それを横で見ていたであろう御者の人は関心している感じだ。それに凄いと言ってるという事はやはり彼は凄い方だったみたいだ。
問題も片付いたという事でまた馬車は走りだす。
今日も私たち以外に乗車したお客さんはいない。意外と馬車って使われてないのだろうか?
「馬車を使う方って少ないのですか?」
「馬車を使う者はそれなりにいますよ。特に今使っている乗合馬車は安く、誰でも乗れるので」
「それでは私たちが向かっている場所はあまり人が訪れるような場所ではないのですか?」
「詳しくは教えられませんが、毎日沢山の者達が訪れる場所ですよ。ただ私たちのように馬車で向かう者は少ないですね」
普通は馬車を使って行くような場所じゃないという事だろうか。という事は今私は普通ではない事をしているという事。
不安はあるけれど妙な胸の高鳴りを感じる。普通ではないというだけで私は何故か期待してしまっていて、なんだかおかしく思ってしまう。
私自身が盲目という、あまりいない存在だというのに。
存外私は私自身の事を普通の存在だと思っていたようで、これまたおかしく思ってしまった。
「どうされました? なにか面白い事でもありましたか?」
「いえ、普通ってなんなんだろうって思ったら不思議と心が軽くなったのです」
「普通ですか? たしかに普通ってなんなんでしょう」
彼は普通では無い感じがする。それは本人も思っている感じだ。
そして彼の言う、私に会いたいとおっしゃっているお方もきっと普通ではないのだろう。
じゃあ私は? 普通ではない彼と旅し、普通ではないお方が会いたいという私は普通?
いや、普通じゃない。
なら普通ではない私は何なんだろう。
出来る事ならば彼との旅路で答えを見つけたい。
きっと一人では見つける事は出来ない、そんな確信だけを胸に持ち、私は彼と馬車に揺られた。
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