第3話 旅のイメージ

 ガタゴト、ガタゴトと馬車の音が聞こえる。

 それもそのはずで、いま私は馬車に乗っていた。

 私はてっきり歩いて向かうのだと思っていたので、出鼻を挫かれた気持ちでいっぱいだった。

 確かに目の見えない私が歩いて旅に出るなどありえない事は分かるのだけども、私の旅のイメージは徒歩だったのだ。


 今乗っている馬車は乗合馬車らしいのだけど、私と彼以外に同乗者がいる感じがしない。どうやら貸し切り状態のようだった。

 他人を気にしなくて済むのはいつぶりだろうか。彼も他人であるはずなのだが、何故か気にならない。むしろ心地よく感じる。


 道中は幼い頃にお母さんが話してくれた物語とは違い、特に何もおこらずに隣町にたどり着いた。

 実の所、内心では何か起きるのではないかと胸を高鳴らせていたのだが、正直拍子抜けだった。


「ここが宿になる」


 御者の人が宿前に馬車を止めてくれたようで、宿の中まで案内してくれる。


「わざわざありがとうございます」

「気にするな、宿の確保までが料金に含まれているからな。明日は朝一で宿の前で待ってな。通り道だからその時拾ってやるよ」

「わかりました。お願いしますね」


「おう」と御者の人は馬車を動かし去っていった。

 悪い感じの人ではなかったなと思った。


 部屋に案内され、椅子へ座らせてもらい私は彼へと尋ねる。


「明日も今日と同じ馬車に乗るのですか?」

「ええ、同じ馬車に乗ります。慣れない馬車での移動で疲れたでしょうから、今日は早めに休みましょう。乗り遅れると大変です」


 確かに初めての馬車、それも長時間乗っていたので思ったより疲れた。


「分かりました。正直かなり疲れてしまったので先に休ませて頂きますね」

「はい、ゆっくりお休みください」


 彼は私をベッドへと誘導し、ゆっくりと毛布をかけてくれた。

 こんな風に毛布をかけてもらったのはいつぶりだろう。幼い頃にお母さんが私を寝かしつけてくれていた時以来ではないだろうか。

 懐かしい思い出は微睡むように消えていった。

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