第2話 変わった人
盲目の私は先日、お母さんが亡くなり天涯孤独になってしまった。
目が見えない事で苦労もあった。心無い言葉を投げかけられる事もあった。
それでも優しいお母さんに支えられ、他人からの悪意ある言葉にも耐える事が出来ていた。
しかし私よりも先にお母さんが耐える事が出来なくなってしまった。
私がいるせいで精神が摩耗し擦り切れた。
目に見えなくとも日に日に弱っていくお母さんを私は感じ、しかし何もしてあげる事が出来ず、悔しい日々が続いていた。
そんなある日、私に声をかけてくる変わった人が現れた。
彼曰く、探し物をしているとのことだったが私は盲目で、力になる事は出来なかった。
それから数日後、お母さんは亡くなった。
自殺だったそうだ。自分でお腹に包丁を刺したらしい。盲目の私にはどんな姿で死んでいたかなんて確認する事も出来ず、しかし気づけば涙が溢れていた。
私に何か一言あれば……と思ったが私には何も出来なかっただろうし、お母さんもそれが分かっていたのだろう。
私には何も伝える事なく死んでしまった。
遺書も無かったそうだが、しかしそれも当たり前で、仮に遺書があっても私には読むことも出来ないのだから。
お母さんが亡くなって1週間ほど経ったころだろうか。お母さんの死を受け入れ、これからどうするか考えていた時、先日私に声をかけてきた変わった人がまた現れた。
「やっと見つけましたよ」
少し前に私に探し物について尋ねてきた彼だった。
「それはよかったです。わざわざ報告に来られなくてもよろしかったですのに、律儀なお方ですね」
「いえいえ、律儀も何も、私の探し物は貴女だったのです。まさか人で、それも盲目の女性だとは思っておりませんでした」
「私が、ですか? 人違いではありませんか?」
「いえ、貴女で間違いありません。出来る事ならば私と共に来てくださいませんか?」
これはもしかして人攫いなのでは? 言葉巧みに騙して……言葉巧みでは無かったですね。
「信用出来ないのは承知しています。それでもお願いします。私と共に来てはいただけませんか?」
「……理由。私を連れていきたい理由を教えてください。でなければ共に行くことは出来ません」
私の言葉に彼は言葉をつまらせた。何か言えない、またはどこまで言っていいのかを考えている、そんな風に感じられる。
「貴女に会いたいとおっしゃっているお方がいるから、としか言えません。詳しく説明できなくて申し訳ありません」
「はあ、話になりません。と言いたいのですが、正直今の私には何も残っていませんし、丁度これからどうしようかと悩んでいた所です」
「でしたら!」
「ええ、そのお方の元まで一緒に行きましょう」
「ありがとうございます」
私にはもう失うものなど何もない。ここで一生を一人で無意味に暮らすより、彼に裏切られる方がまだマシな人生になるだろう。
ならば私は勇気を出し一歩踏み出すことを選ぶことにした。
「では貴女を連れていくにあたり、一つだけ質問を。もしもその目が見えるようになったとしたら何を見たいですか? 見たくないものはありますか?」
「見たいものですか……いくつかあります。そしてその中でも特に、というものが一つだけ出来ました。それは……」
「それは?」
「それは秘密です。ですが見たくないものはありません」
「そうですか。分かりました、その答えが聞けただけで十分です」
私の答えに満足したのか、彼は少しだけ機嫌がよさそうな感じだ。
なぜこの答えに満足でき、機嫌がよくなるのか、私には分からない。
だけど深く聞いてこなかった事で私は安堵してしまった。
だって私の見たいものは、こんな私に話しかけてくるような変わった人の彼なのだから。
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