この勇者パーティーの中に一人裏切り者がいるらしい
仲仁へび(旧:離久)
第1話
世界中の人々を困らせる魔王。
魔王ラストゲイト。
千年に一度封印から解放されるその魔王は、定期的に討伐しなければならない存在だった。
魔王を好きにさせておくと、魔物の活動が活発になるだけでなく、各地に闇の魔力が瘴気として噴き出してしまうからだ。
だから、その時代に復活した魔王を、誰かが倒す必要があった。
そんな魔王討伐を任される事になったのは、勇者である一人の少女ヒカリだ。
ラストゲイトを倒すために、人々は勇者ヒカリにすべての希望を託した。
「困っている人たちのために、私はこの剣をささげます。志を同じくするものは、私達のもとに。一緒に戦いましょう!」
ヒカリの意志に呼応した者達がつぎつぎとやってきて、勇者パーティーが結成された。
「よろしくお願いしますヒカリ様、治癒はお任せください」
「よろしくなヒカリ。攻撃は俺に任せておけ」
「初めましてヒカリお姉ちゃん、魔法なら僕がばっちりだよ」
「やあ、ヒカリお嬢ちゃん。魔王討伐のために一緒に頑張ろうぜ」
勇者ヒカリは、頼もしい仲間たちとともに、魔王ラストゲイトを倒すべく、研鑽を積み、めきめきと実力をつけていく。
武器や防具を至急してくれるものもいたし、騎士団も力をかしてくれた。
ヒカリたちは団結し、大きな力で、魔王の脅威に立ち向かっていった。
「勇者様がいれば怖くない!」
「魔王だってきっとやっつけてくれるに違いないよ!」
「魔王討伐は時間の問題だな!」
このまま順調にいけば、魔王討伐も可能だと、誰もがそう思っていた。
しかし、彼女は途中で多くの仲間を失ってしまう。
魔王軍幹部と討伐するために、旅を進めていた勇者達と騎士団は、待ち伏せをうけて、ひどい損害を出した。
タイミングの悪さを怪しんだヒカリは、騎士団に調査を依頼した。
すると、一人の人物が裏切り者として名前があがった。
その人物の名前はジャック。
彼はたびたび、パーティーから外れて、行方をくらますことがあった。
確信がほしかったヒカリはさらなる調査を始める。
一人で行動するジャックの後をつけたり、嘘に反応する魔道具を使ったりした。
様々な調査を行った結果。
ジャックが裏切り者である事が確定。
「どうして私達を裏切ったのですか」とヒカリは問い詰めた。
すると。
「お金が欲しかったんだよ、だから裏切った」
と、ジャックが答えた。
「お金は一体何に?」
「ただの女遊びさ、贅沢をしたかっただけだ」
ジャックは軽薄で、女遊びの激しい若者だった。
それでもジャックは勇者パーティーにふさわしくて、強く、有能であった。
休憩時間には仲間たちを得意の冗談で楽しませるジャックを、ヒカリは信じていたかった。
「分かりました、ならば私が直々にあなたを成敗してさしあげます」
勇者は怒り、せめてもの情けと、ジャックをその手にかけた。
けじめとして、大勢の者達を困らせた人物をこの手で。
ジャックの裏切りでなん十人もの死者が出ていたのだから、そうする以外に方法はなかった。
しかし、そんな事をしても誰も幸せにはならない。
ただこれからの安全が確保されただけで。
失った仲間たちは戻ってこなかった。
ヒカリは虚しさを抱えたまま、魔王との最終決戦へ向かっていく。
仲間たちはそんなヒカリを心配していたが、ヒカリは気丈にふるまう。
「どんなに辛くても、人々の期待を背負った勇者が、逃げ出すわけにはいかない」と。
しかし、結果は敗北だった。
勇者は心を疲労させた影響で魔王に破れてしまう。
勇者を欠いた世界は、魔王に蹂躙されるしかなくなり、やがてその世界は滅びてしまう。
勇者なき世界は「なぜ」と嘆いた。
なぜこんなことになってしまったのか。
なぜ、魔王を倒せなかったのか。
人々は諸悪の根源を一人に定め、その人物を呪うしかできなかった。
裏切り者ジャック。
彼さえいなければ、世界の平和は守られたのではないかと。
人類が絶滅するまで、時はそうかからなかった。
ジャックの名前は最後の最後まで憎しみの対象として、人々に語り継がれる。
隠れひそんでいた人類の、最後のコロニーが魔王軍幹部によって暴かれた時、人々はジャックの存在を呪いながら死に絶えていった。
この勇者パーティーの中に一人裏切り者がいるらしい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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