第294話 訓練されすぎでしょ
配信が始まった時、そこに映っていたのはいつもの公爵令嬢ではなかった。
「ごきデルハイトですわー!」
カメラに向かって『あざとウザい』笑顔を見せるのは、完全武装状態の
:ごきデル……ファッ!?
:こんにち……誰だお前ェ!?
:アデ公ちゃうやんけ!
:おや? チャンネルを間違えたかな?
:げぇっ、くるる!
:あ、
:貴様ァ! その程度の気品では似ても似つかんぞ!
:だんちょを僭称するにはちょっと乳が足りないです
当然、コメント欄には困惑の声が寄せられる。だがそこは流石の騎士団員達。すぐに
「ぬーん……もっと驚くと思ったんだけどなー! キミたち訓練されすぎでしょ」
「えっと、ちなみに私も居ます。改めまして……みなさん初めまして! 普段は砂猫チャンネルで活動してます、
リスナー達の反応が予想外だったのか、つまらなそうに頬を膨らませる
:うぉぉぉぉ!
:あらかわいい。はじめまして!
:茉日ちゃんおるやん
:ん? キミ初めましてじゃないよね?
:お久しぶりぃ!
:初回配信以来やんけ!
:誰さん?
:伝説の(異世界殺法)目撃者やぞ
:知ってるか知らないかで、古参具合が分かる仕組みw
とはいえそれも、今となっては随分と前の話である。最初の頃とは比べ物にならない程、今の異世界方面軍は大量のファンを抱えている。初回から配信を追っている古参団員であったり、或いは、アーカイブで全てを履修している勤勉な団員であればいざ知らず。ここ最近の活躍から異世界沼に入った新米騎士団員達にとって、
だが、普段から他のダンジョン配信を見ている者であれば、『砂猫』の名前くらいは聞いたことがあるだろう。
:茉日知らんとかモグリか?
:京都では『魔女と水精』と並んで有名なんだけどな
:こんなときはアレよ
:教えて爆速タイピングニキ
:茉日(まひる)(名) ダンジョン配信者であり、パーティ『砂猫』のメンバー。異世界方面軍の初配信時、魔狼に襲われていたところを我らが団長に救われる。謂わば伝説の始まりを目撃したものであり、異世界殺法を最も間近で目撃した者の一人である。
:ヤツが今日も見てるかどうか
:はやいはやいw
:いるに決まってるんだよなぁ
:サンキューニッキ
リスナー同士によるいつもの解説を挟み、そこで漸くアーデルハイトがカメラの前に姿を見せる。完全探索装備状態の
「というわけで、今回の探索にはこの二人が同行しますわ!」
:どういうわけだよ!
:コラボ……というにはなんか変な構成だな
:ゲスト的な感じか?
:っていうかココどこだよw
:そら京都でしょ
:この二人がいるんだからまぁそうよな
:京都の一層ってこんなに緑多かったっけ?
:ダンジョンソムリエワイ、出雲と予想
コメント欄は再び困惑へ。
アーデルハイト達の背後に広がっているのは、これまでの配信では映った事のない景色であった。一言でいえば、それは『山』であった。葉の落ちた木々、静かに流れる川の音。足元にはちらほらと積もる雪。その隙間からは、枯れ葉の絨毯が顔を覗かせている。遠く後ろの方では、キマイラ状態の肉と毒島さんが兎を追い回して遊んでいた。まるでここがダンジョン外であるかのような、それこそ、本当の野山にでもやって来たかのような風景だった。
「あら、凄いですわ。そうですの。ダンジョンソムリエワイ氏が仰った通り、今回は出雲ダンジョンにやってきておりましてよ! ミギーとオルガンの不思議パワーを手に入れるため、神と縁が深いとされるココを選びましたの。まぁ、それは空振りに終わりましたけれど……そうそう、ゲストの二人とは偶然旅先で出会っただけでしてよ」
アーデルハイトの口から次々に語られる、今回の経緯。事情を知らないリスナーたちからすれば、ほとんど情報の洪水と言っていいだろう。だがこれも、いつも通りといえばいつも通りの展開だ。一度に放り込まれる情報量の多さが、ある意味では異世界方面軍の特徴である。なおアーデルハイトは知る由もない事だが、異世界方面軍スレでは既に『こまけぇこたぁいいんだよ』が合言葉となりつつある。
:多い多いw
:不思議パワー(ふしぎ
:指揮官の説明が何一つ理解できない件について
:そんな偶然ある??
:一気に詰め込むのやめーやw
:なるほど、わからん
:出雲か……今回はかなり面倒なとこ選んだなぁ
:難易度高いの?
「なんと申しましょうか────そう、わたくしたちにも色々と事情がある、ということですわ。とにかく、今回皆さんに知っておいて頂きたいことはたったのひとつだけですわ」
詳しく経緯を説明するには、それなりに長い時間がかかってしまう。おまけに、説明したところで誰も理解出来ないような内容なのだ。なにしろ、短く纏めたところで『神様パワーを手に入れるようと出雲大社に向かったが、空振りに終わった。むしゃくしゃしたのでダンジョンの方を攻略する』といった説明になってしまうのだから。
故に、アーデルハイトは詳細を割愛した。ダンジョンに来た以上、やるべきことは結局変わらないのだ。
:ほう……言ってみたまへ
:聞かせてもらおうか、そのたったひとつの情報とやらを
:なんかいやーな予感がするんよ
:ふん、つまらん内容なら承知せんぞ
:だから誰なんだよテメーらはよw
:ここまでテンプレ
:急に上から目線になるの草
そうして、アーデルハイトはリスナー達に告げる。
「今回はクリア目的――――所謂『クリ目』でしてよ!」
それは伊豆ダンジョン以来となる、通算二度目の宣言であった。
「あと、ついでに戦技教導のお試しもやりますわよー!」
そして『お知らせはたったのひとつだけ』という先の発言は、ほんの数秒で裏切られる。異世界方面軍の出雲遠征は、そんななんとも締まらない幕開けとなった。
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