第288話 運命的な何かを感じる

 岡山駅で新幹線を降り、特急列車で移動すること、およそ三時間。雪が降り積もる出雲の地へと、一行は漸く降り立った。出発したのは午前中であったが、現在は昼を過ぎて夕方前だ。景色に喜んでいたのも束の間、ヘタレエルフはすっかりグロッキー状態である。


「んー……っ! ふぅ」


 アーデルハイトがぐっと体を伸ばす。フィジカルお化けの剣聖に疲れなど無いが、しかしずっと同じ姿勢というのは、それなりに身体が強張るものだ。そんなアーデルハイトのすぐ後ろには、車内で偶然遭遇した二人の姿もあった。


「いやー! まさか目的地まで一緒とはねぇ!」


「ねー」


 そう、くるる茉日まひるの二人もまた、オフシーズンを利用して出雲へと旅行に来ていたのだ。無論、示し合わせたわけではない。本当にただの偶然だ。とはいえ、オフシーズンを利用し旅行に出る探索者は少なくない。向かう先が有名な土地であればこそ、こうした偶然も、それほど不思議ではないといえるだろう。


 二人共に探索者である故か、或いは旅行が楽しみだからなのか。彼女達にもまた、疲れは見えない。既にスヤスヤのペット二体はともかくとして、エルフは彼女らを見習うべきであろう。なお羽目を外しすぎたのか、酒の入ったみぎわはすっかり赤ら顔。目的地には到着した異世界方面軍ではあるが、とても観光出来るような状態ではなかった。


「わたくし達はこのまま旅館に向かいますわ。流石にアレでは、ね」


 クリスがタクシーを拾う間に、アーデルハイトがくるる達へと声をかけた。観光の際には行動を共にするという約束を、車内にて既に交わしている。アーデルハイトとしては早速街に繰り出したかったのだが、酔っぱらいと虫の息エルフは、流石に荷物として大きすぎる。もちろん二人共小柄だが、そういう問題ではない。


「私達はちょっとだけ周辺を観光してから、ホテルに向かうつもりだよー」


「夕食は外でするつもりだったもんね」


 折角の旅行ということで、くるる茉日まひるは早速観光へと出るらしい。もちろん宿泊先で出る食事も良いものではあるが、雰囲気を楽しむためにも、初日は外で夕食を済ませると決めていたようだ。


「アーちゃん達も、明日はまだダンジョン行かないんでしょ? だったら今日の夜か、遅くても明日の朝には連絡するよ!」


「承知しましたわ」


 そう言葉を交わした後、クリスが捕まえたタクシーへと、どデカい二つの荷物を放り込む────流石にトランクではなく、後部座席にだ────アーデルハイト。そうして軽く手を振りながら、くるる茉日まひるに別れを告げる。


 オススメの観光スポットや食事処など、運転手から様々な情報を仕入れつつ、一行は予約しておいた旅館へ。一月ということもあってか、到着した頃には既に辺りは薄暗く、ライトアップされた旅館がとても綺麗だった。


 クリスが予約していた旅館は、出雲市内でもなかなかのグレードを誇る、謂わば高級旅館であった。恐らくは入念に下調べをしたのだろう。ライトと雪で彩られたその旅館は、外観からして既に一流だ。伊豆や神戸のときもそうであったが、クリスは宿泊先にこだわる傾向にあった。毎度ホテルではなく旅館、つまり和風を好んで選ぶのは、彼女が異世界出身だからなのだろうか。


 なおホテルと旅館の違いとは、主に部屋の数と広さで決まる。しかし、ただ利用する分にはそれほど気にする必要はない。食事や入浴といったものが基本的に別サービスとなっており、他人との関わりが薄いのがホテル。仲居さんが食事を運んでくれるなど、サービス面で充実している代わりに、他人との関わりが比較的多いのが旅館、といったところか。要するに、プライバシーを重視するならホテルを。サービスを重視するなら旅館を、というわけだ。どちらにもメリットとデメリットがあるため、好みで選ぶべきと言える。閑話休題。


 チェックインを済ませ、案内された部屋でくつろぐこと暫し。運ばれてきた豪華な料理を食べているうち、酔っぱらいとヘタレの二人も徐々に復活し始める。とはいえ、まだまだ動きは鈍かったが。そうして食事を終え、いよいよ温泉を堪能しようかと考えたアーデルハイト。手早く浴衣へと着替え、クリスと二人、いそいそと大浴場へ向かう。


 と、そんな時だった。


「あら?」


「あれ?」


 丁度チェックインを行っていたくるる、そして茉日まひるを発見する。その様子を見るに、どうやら二人の宿泊先もまた、アーデルハイト達と同じであったらしい。


「あはははは! まさか宿泊先まで一緒とはね! いやぁ、ここまでくると運命的な何かを感じる!」


「まぁ、有名なトコだからね……それにしても結構な確率だと思うけどさ」


つい先程、約束を交わして別れたばかりだというのに、それは随分と早い再会であった。

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