第239話 クソの役にも立たねぇ
「あははははは! マジでヤバ過ぎなんだけど! 速すぎて正直全然分からんけど!」
「
彼女達がクランハウスで視聴しているのは当然、アーデルハイトとウーヴェの模擬試合配信だ。模擬試合とは言いつつも、両者ともにそれなりの怪我を負っているのだが。この日は
コラボ配信を行った時もそうであったように、アーデルハイトの戦いを見ることで得られるモノは多い。トップ配信チームの一角であり、強くなることに人一倍貪欲な彼女達にとって、この戦いはどうしても見ておきたかった。ましてやその相手は、アーデルハイトと同格であるという某モザイク系男子だという。見逃すなどという選択肢はあり得ないだろう。
そうして深夜、リアルタイムでの観戦を始めたはいいものの───。
「まぁせやけど、
「そうねぇ。辛うじて見える……ような気がするって感じだわ。アタシ達ですらこの調子なら、ほとんどの人がよく分かってないんじゃない?」
そう言って自嘲気味に笑うのはスズカとクオリアの二人。
「あー笑った笑った。いやー、これある意味放送事故じゃない?」
「一応、要所をスローに編集した動画を後から投稿してくれるらしいけど」
「あ、そうなの? それは助かるー! で、あれだ? またパンツ映ってて垢BANされるとこまで読めた!」
「編集するんやから、仮に映っとってもカットするやろ……」
異世界方面軍が過去に起こした手痛い失敗を思い起こし、再びゲラゲラと笑い始める
「それで、ウチの戦闘担当としてはどう思うの?」
そんな
「……分からんわ」
「分からないわねぇ」
しかし戦闘役の二人は、腕を組んだまま首を傾げてそう答えた。もちろん戦闘技術には自信のあるスズカとクオリアだが、流石にここまでくると予想すらつかなかった。アーデルハイトの強さは実際に目で見て、肌で感じた事がある。だが今この配信を見ている限り、コラボ配信の時に見せた圧倒的な強ささえ、彼女にとってはほんの戯れに過ぎなかったことがよく分かる。
そしてそれは相手の男も同じこと。
馬鹿げたまでの異世界チートお嬢様と、こうして互角に渡り合っているのだ。彼の実力もまた疑う余地がない。
「なんだよー、二人ともメチャ役立たずじゃん。ちゃんと解説してよー」
「無茶言わないでよ。アタシ達は人間、アッチは人外。自然現象の予測なんて正確には出来ないでしょ? それと一緒よ」
そんな達人、否、異常者同士の戦いの行く末など、まだ常識の範疇に収まっている二人には分かるはずもなかった。
「ま、そのへんはあのちびっ子エルフやらが解説してくれるんやろ。大人しゅう見ときぃや」
* * *
探索者協会伊豆支部内、食堂にて。
実況役の
「ああっとォー! もう全然分からーん! パンピーのウチには何も分かんねーッス!」
探索者というわけではない
「解説のオルガンさん! 解説をお願いするッス!」
「え、分からんけど」
「クソの役にも立たねぇー!」
クソの役にも立たなかった。
同じ六聖の一人とは謂え、彼女は純粋な戦闘タイプではない。持ち前の魔力と応用力で戦闘もある程度は熟すが、しかしどちらかといえばオルガンは技術者なのだ。当然、アーデルハイト達の戦闘についていけるワケもなく。
「決着は遠くない、ような気がする。達人同士の戦いは一瞬で───みたいな感じのアレだと思う。知らんけど」
「適当に喋り過ぎィ!」
結果、解説役としてまるで意味を成していない、ただ適当にそれっぽい言葉を並べるだけのBotと化していた。激しい───ように見える───戦闘映像のおかげか、会場内の雰囲気こそ悪くない。むしろ益々の盛り上がりを見せてはいる。だが観客の大半が戦いの内容を理解しておらず、ノリと勢いで騒いでいるだけであった。
しかし、そうしてオルガンの頬をムニムニと弄くり回す
「旦那が姫さんの剣を足で抑えたように見えたなァ。アタシと模擬戦やった時にも見せた、例のアレじゃねェか? んで、反撃しようとして───」
「我が師、アーデルハイトが死角から飛び蹴りを繰り出した。クク、残念ながら防がれたようだがな……その後、足を掴まれそうになったところで後方に退避───といったところか。恐らくだがな」
どうやら二人には、先の攻防が辛うじて視認出来ていたらしい。共にハッキリと見えていた訳ではない為、多分に想像も含まれてはいるが、しかしこの場の誰よりも正しく状況を理解出来ていた。
「え、凄いッスね!? 今の見えてたんスか!?」
「まァな。つっても、全部が全部ってワケじゃねェけどなァ」
「我も似たような感じだ。断片的に見えた情報から、間は推測に過ぎぬ」
どこか自信がなさそうに、言葉を濁しつつ答える
「な、成程ッス! それで、この後の展開はどうなるッスかね!?」
無能Botをどこかへと放り投げ、そうして
「どう見たって二人とも全力じゃねェだろ。分かんねェよ」
「クク……分からん。分からんが……我が師が負ける筈あるまいよ」
二人の言葉は違うが、しかし言わんとするところは同じ。つまり───。
「結局、誰も何も分かんねーんじゃねーッスか!」
そんな叫びと共に、
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