第216話 ああいうやつを買うべきですわ
「けっかはっぴょぉーーーッス!!」
「待ってましたわー!!」
「いえーい!!」
「いえーい」
茨城支部に併設された、探索者達が集う食堂で。ダンジョンから戻ってきた一行は、早速とばかりに今回の成果を確かめ合っていた。
「ちょっとアンタ達! 声デカいわよ! 食堂なんだからココ!」
「気にすることないと思うよ? むしろさっきから目立ちまくってるし、今更だよ」
「すみません。すっかり恒例行事になってまして……」
「えー、まずは収入から発表します! 今回の我々の成果は……なんとゼロです!!」
「な……ッ! タダ働きだったということですの!?」
「まぁ、今回は素材の売却してないんで当たり前ッスけどね。代わりにクロエさんから素材引き渡しの報酬が出るので、厳密には成果無しというわけじゃねーッス」
「あ、そういえばそうでしたわ……それならよくってよ!!」
今回異世界方面軍が
そういった理由から、現時点での収入はゼロということになる。とはいえクロエからは十分な報酬額を提示されているため、さしたる問題はない。つまりはただアーデルハイトが忘れていただけのことである。
「私達も『レーヴァテイン』の実戦テストが出来たし、研究用の素材もバッチリ手に入ったわ。金銭的にはマイナスだけど、お互い目的は達したというところかしら?」
「試射を一発で終われたのが大きいね。正直、僕たちだけならあと数発は撃ってたと思う。アーさん達と、それからぐーやには感謝しなきゃね」
『茨の城』の二人も、収支で言えば激しくマイナスだ。だがこの二人は稼ぎ目的でダンジョンに潜ったわけではない。そもそもからして、資金力には一切の不安がない二人だ。二人にとっては、例の試作武器のテストが出来ただけで御の字だった。露払いを
「そして! ウチらのチャンネル登録者数もバッチリ伸びたッス! 茨の城ファンを取り込めたのは大きいッスね。流石はトップ配信チームッス」
「ま、配信自体はうちでやったけど……あんなの見せられたらそりゃ興味も湧くでしょうよ。正式なコラボってワケじゃないけど、お役に立てたのならそれでいいわ」
オファーを出したのは
「私は登録者とか関係なく、魔法の実践が出来ただけで満足です! 師匠からも及第点をもらいましたし、言う事無しです!」
「アンタのとこはもともと人気チャンネルでしょうが」
ほとんどおまけのようなポジションで、アーデルハイト達について来ただけの
総じて今回の合同探索では、それぞれが望む形の成果を得られた。まさに大成功と言える結果だろう。複数パーティによる合同探索は、大抵の場合どこかが美味しくない目に逢うことが多いのだが、彼女達程にもなればそんなセオリーはどうやら関係ないらしい。
「さて、それじゃあ今回はこれでお開きかしら?」
結果発表などと銘打ってはいるものの、素材の売却をしていないが故に大した時間もかからなかった。そうして
「それならわたくし、実はやってみたいことがありましてよ!」
「え、な、なによ急に……アンタがそういうこと言うと、なんだか嫌な予感がするわ」
「地味に失礼ですわね……折角ですし、皆でロイバに行くというのは如何でして? そう、これは所謂、打ち上げというやつですわ!」
アーデルハイトの提案。それはこういった集まりにありがちな、打ち上げの提案であった。一体何処でそんな風習を仕入れてきたのか分からないが、アーデルハイトは妙に興奮した様子である。
「淫ピーもオルガンにいろいろ聞きたいことがあるのではなくて? 優しく慈愛に満ちたこのわたくしがその機会を用意して差し上げると、そう申しておりますの」
「誰が淫乱ピンクよ!! ……でもまぁ確かに、色々と話を聞かせてもらえるなら、その……ありがたいけど」
或いは打ち上げというのは方便で、実際にはただファミレスに行きたいだけなのかもしれないが。ともあれアーデルハイトの提案は、
それにダンジョン内でアーデルハイトが話していたことが真実ならば、『レーヴァテイン』の改良についても何かヒントが貰えるかもしれない。それを思えば、この打ち上げの提案には乗る以外の選択肢がなかった。
「む? まぁよかろ。何の話かよくわからんけども」
水を向けられたオルガンにも、特に拒絶する素振りは見られない。語尾に不穏な一言がついていることを除けば、概ね承諾と取っても問題なさそうだった。
「決まりですわ! クリス、早速近くのふぁみれす?を予約して下さいまし!! わたくしの名前を出しても構いませんわよ!」
「お嬢様の名前を出す意味が分かりませんし、そもそもファミレスに予約など必要ないと思いますが……畏まりました」
アーデルハイトに命じられるまま、クリスがスマホを操作して近くのファミレスを検索する。どうやら近場にアーデルハイトご希望のロイバがあったようで、そのまま駐車場へと向かいつつ予約の電話を入れる。その間に
「わたくしたちはこのレンタカー? で移動するつもりですけど、淫ピー達はどうしますの?」
「私達も車で来てるから。現地で落ち合いましょ」
「では、また後でお会いしましょう」
そんなアーデルハイトの問いかけに、ひらひらと後ろ手を振りながら答える
静かなエンジン音と共にその場を去ってゆく高級車を、アーデルハイト達が唖然とした表情で見送る。
「……ミギー。わたくしたちもお金を溜めて、ああいうやつを買うべきですわ」
「あんな長い車、運転出来る気がしないッスけど……まぁ、一度は乗ってみたい車ではあるッスよね。憧れるというか」
「ですわよね!? では次の目標は───」
「だが断る」
「アレを買い───どうしてですの!?」
「荷物でギチギチじゃないと嫌ッス」
そんなアーデルハイトの提案は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます