第211話 なんて態度の悪い奴らなの
茨城ダンジョン10階層。
配信が始まってから、既に4時間ほどが経過している。随分と長いように聞こえるが、こうした長時間の配信はダンジョン配信界隈では当たり前のことだ。むしろ、一般的な探索者パーティとは比べ物にならないほどの進行速度である。魔物に逢っては亀を投げ、霧に逢っては肉を投げ。
「そろそろ霊亀が出る頃よ。ここからは厄介な魔物も出てくるし、気を引き締め───やっぱり、なんでもないわ」
今回が茨城ダンジョン初挑戦であるアーデルハイト達へと向けて、
「あら、もうそんなところまで来ましたの? 階層主はおりませんの?」
「茨城ダンジョンは15階層まで階層主がいないんですよ。今回は霊亀と研究用素材の回収が目的なので、そこまで行く必要はないんです」
「ぶぅ」
「ところで、どうやって霊亀を倒すつもり? こう言っちゃなんだけど、アレ相当硬いわよ? まぁさっきの亀投げならイケるかもだけど……」
「これまで同様、全て
霊亀はとにかく硬いことで有名だ。しっかりとした手順を踏めば、そこらの探索者でも倒せないわけではないが、しかし同格の魔物達の中では討伐難度が頭一つ抜けて高い。故に
霊亀を倒す場合、最低でも探索者が二人必要だと言われている。普段は温厚な魔物でありながら、一度でも手を出せば激しく暴れまわる、その習性を利用するためだ。端的に言えば『
「ちょっとアンタ、あんな事言ってるけど大丈夫なの? 手ぇ、貸す?」
「ククク!
「あ、ウザモードでしたわ」
結わえた黒髪とファーを靡かせ、大仰な動きでそう返事をする
彼女の眼帯は小さな穴が空いているらしく、実はちゃんと見えているらしいこと。眼帯を付けたままでも動きが悪くならなかったこと。そして何よりも、
:さっきまでかわいい後輩モードだったのに……
:モードチェンジ大変そう
:エターナルフォースブリザード!
:もうファッション邪気眼はバレてるんだよなぁ
:前にゲストで来た時と大分違うな?
:駄目だ、もう異世界に取り込まれてやがる
:これで死ぬほど強いからなんもいえない
他の『†漆黒†』のメンバーでいえば、蔵人とルシファーがキャラウケだ。
* * *
薄ぼんやりと広がる霧の中、それは姿を現した。
『蓬来山』と呼ばれる桃源郷を甲羅の上に乗せ、人智を超える巨大な体躯と、恐ろしく長い寿命を持つ霊獣。それが霊亀だ。といっても、それはあくまで神話上での話。茨城ダンジョンに生息する魔物の霊亀は、その伝説上の生物に因み、探索者協会が勝手に名前を付けただけだ。
しかし何の理由もなく、ただ亀の化け物だからと名付けられた訳では無い。立った時の大きさは大凡4メートル程。その巨体は魔物の中でも大型に分類される。目を引くのはやはり巨大な甲羅だ。まるで蓑亀のようにびっしりと苔生したそれは、それこそ小さな山を乗せているかのよう。当然ながらその硬度は凄まじく、刃物は疎か鈍器の一撃でさえも通さない。分厚い皮膚と鱗に覆われた四肢は象よりも太く、あまつさえ鋭利な爪まで生えていた。
動きこそ鈍重なものの、それも手を出さなければの話。戦闘状態に入った霊亀は、その巨体も相まってか酷く足が速い。小回りは利かないが、そこらに生えている木々など、まるで障害にもならない重量と膂力。一部では茨城ダンジョンの看板とさえ言われている魔物。それがこの霊亀だった。
そんな霧の中に佇む霊亀の前に、妙な服装をした女が一人。制服風の改造衣装に、装飾過多の眼帯。左手には漆黒の指ぬき手袋。衣装の端々にはシルバーの十字架が揺れ、とてもではないが動きやすい服装には思えない。長い黒髪を湿地の生ぬるい風に靡かせ、身の丈程もある純白の太刀を手に。そんないよいよ始まる
「あ、お嬢様。どうやら始まるみたいですよ」
「ほぉ……ではお手並み拝見といこうか、ですわー」
【いよいよ本番ッスねぇ】
【ほぉん、やってみたまへ】
現地組はもちろんのこと、地上版からもイヤホン越しの野次が飛ぶ。そんなどこかコミカルな光景に、傍から見ていた
「なんて態度の悪い奴らなの……!」
そんな緊張感の欠片もないやり取りが背後で行われているなど、露ほども思っていない
「
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