第210話 教えは何処いったのよ
まるで湿地帯のような水場をのんびりと進む。纏わりつく湿気が鬱陶しく、薄っすらとかかった霧の所為で視界は悪い。こういった環境の変化も、探索者達が銃を好まない理由のひとつなのかもしれない。
茨城ダンジョンをホームとしており、地図など無くとも進める程度には慣れている、そんな
そんな順調極まりない行軍を成立せしめているのは、偏に、怪しいナビゲーターのおかげに他ならなかった。
自称異世界人であるアーデルハイトの実力は、つい先程見せつけられたばかり。あまりにも隔絶した彼女の実力は、
だがしかし、それでも。アーデルハイトの投擲はまだ理解の範疇にあったのだ。確かに馬鹿げた威力ではあったが、行為自体は力任せの投擲に過ぎない。レベルアップを何度も重ねれば、いずれは同じことが出来るようになるかも知れない。一体どれほどの年月を必要とするかは分からないが、少なくとも全ての探索者の延長線上にある力だった。
だが───
【んー……3時の方向に魔物ッス。数は2、距離は大体700ってトコッスね】
「承知しましたわー」
【そのまま真っすぐ進んで───これは池かな? まぁよくわかんねッスけど、なんかそんな感じのヤツにぶつかったら、時計回りに迂回して下さいッス。そしたら次の階層ッスね】
「よくってよー」
だがこれはなんだ。今回の配信は『茨の城』だけが行っているため、地上との通信はこの場の全員に共有されている。故に
何故? 一体どうやって? そもそもナビゲーターを務める彼女は
「ちょっと
「え、何?」
「何よこれ! どうなってんのよ!?」
「え、何が?」
この異様な光景を前にして、
「いやぁ、僕も配信でしか知らなかったけど……実際目の当たりにすると、凄いねコレは……」
「凄いなんてもんじゃないわよ! こんな……こんなのチートじゃない!」
「ね。でも現場はもっと凄かったよ? もう何してるのか全然分かんないから。殆ど怪しい儀式か何かだったよ」
よくよく考えれば別に聞かれても問題はないのだが、何故か声を潜めて話す三人。ちらと前方へ目を向ければ、魔物が居るらしい方角へと肉を放り投げるアーデルハイトの姿。肉は綺麗な放物線を描きながら、そのまま霧の中へと消えていった。
「そもそもあの荷車は何!?
それがどうだ。ここに至るまでには幾度も戦闘があった───
「あ、それはあの荷車が特殊なんじゃなくて、アレを牽いてるお肉ちゃんの所為だよ。『
「あぁ成程、そういうことか……」
「どういうことよ!?」
異世界方面軍リスナーである
「なんで私だけ何も分かんないのよ!? 配信見たことないだけで普通こんな事になる!? 探索者業界の常識と教えは何処いったのよ!!」
「残念ながら、そんな事になるんだよねぇ」
「そう、異世界ならね」
またしても何も知らない
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