第209話 アーデルカート
「ふっ!」
白刃が踊り、艷やかな黒髪が舞う。その度に魔物が地へ沈み、物言わぬ素材へと変わってゆく。アーデルブートキャンプの成果とでもいうべきか、一月と少しという僅かな時間で、
「はっ!」
無論、魔力操作など行ってはいない。ただ純粋な剣技のみで、彼女は魔物共を圧倒している。元より才能の塊であった
「我が刃の錆となれ!」
以前にアーデルハイトから注意を受けた足運びも、今ではすっかり一端のもの。攻撃から次の攻撃へ。以前のように無理な体勢から攻撃を放つようなことはなく、流麗とまでは言わずとも、隙のない見事な体捌きであった。流石にアーデルハイトから見込まれただけのことはある、と言うべきだろうか。覚えの早さという点で、彼女以上の者はそう居ないだろう。
彼女が現在相手をしているのは、
走り、跳ね、転がる。果ては甲羅に隠れた状態から、蛇になっている尾の部分を使い短距離ながら飛行突進まで行う。甲羅の縁部分が刃状になっており、甘く見ると手痛い傷を負うことになる相手だ。とはいえ、今の
更には臀部から生えた蛇に対抗心を燃やしてか、
「あの恥ずかしい掛け声さえなければ、より良かったのですけれど」
「私も詳しくはありませんが、病に侵された者はああいったセリフを言わずには居られないらしいですよ。まぁ、彼女の場合はファッションだった訳ですが」
家に遊びに来た時や、カメラが回っていないところでは普通なのに。いざ配信となれば、やはりキャラ付けは大事らしい。所属しているパーティの方針もあるだろうが、よくもまぁ上手く使い分けるものである。ともあれそういった部分を除けば、
「私でも動きが見えない時があるわ。前はそんなに差を感じなかったけど、今はちょっと勝てそうにないわね……アンタ達、一体あの子に何を教えたワケ?」
「秘密ですわー」
「ぬっ……まぁ、そりゃあそうでしょうけど!」
秘密も何も、アーデルブートキャンプの様子は何度か配信されている。異世界方面軍の配信を見ているわけではない
「アーさん達のアーカイブ、やっぱり見といた方がいいんじゃないの?」
「うっさいわね! 分かってるわよ! そのうち見るわよ!」
張り切って戦う
:なんこの探索
:俺の知ってる探索と違う
:連携とはなんだったのか
:なんなら世間話してるの草
:どうやらイバラーにもバレてしまったようだな……
:ちゃんと連携してるだろ! いい加減にしろ!(毒島並感
:おっ、異世界は始めてか?
:隙あらば古参マウントだもの
一方で、異世界方面軍のファン達はすっかり訓練済みである。そも、異世界方面軍ではアーデルハイトによるソロ探索がデフォルトなのだ。クリスが参戦する場合もあるが、それは極々稀な事。そんな異世界産のパワープレイに慣れた彼らからすれば、むしろ今の光景こそが普通であった。唯一いつもと違う部分があるとすれば、肉が退屈そうにしていることくらいだろうか。
そうこうしている内に、魔物の一団を殲滅し終えた
「師匠! 亀の甲羅をゲットしました!」
「お疲れ様ですわ。ところでコレ、ちゃんと売れますの?」
「勿論売れるわよ? 安いけど」
白亀の甲羅は安い。これは茨城ダンジョンに潜るものなら誰でも知っていることだ。亀の素材と言われれば、誰もが防具への流用を考えることだろう。しかしこの魔物の甲羅はそれほど頑丈ではなく、その割には加工が難しい。そういった理由から、協会では高値での買取を行っていないのだ。
「仕方ありませんわね……折角ですし、投げて遊びますわ」
「……何言ってんのアンタ」
とはいえ、一筋縄ではいかないのが異世界方面軍である。折角
そんな彼女の言葉が聞こえたわけでもあるまいに、一行の進む先に、都合よく一体のカトブレパスが姿を見せた。先程
瞬間、アーデルハイトの右腕がブレて消えた。
「ふんッ!!」
弾の大きさ故に、辛うじて肉眼で捉えることは出来る。だがそれも、何かの影が視界の端を僅かに過ったという程度。音を置き去りにしたそれは、レーヴァテインの弾丸も斯くや、といった凄まじい速度でカトブレパスへと迫る。刹那、けたたましい轟音と共に、カトブレパスが爆散した。
:ん?
:は?
:え?
:初見組が困惑してて草
:実家のような安心感
:こういうのでいいんだよ
:ほう……どこかで見たような光景ですね
:カートの上から亀投げるのやめろw
:アーデルカートかな?
大凡100メートル先。もうもうと砂煙を上げる着弾地点を、アーデルハイトが覗き込む。放った甲羅は見事、目標を倒すことに───否、跡形もなく消し飛ばすことに成功していた。
「やりましたわー!! 蟹さんよりも投げやすいですわー!」
「……」
「あら、淫ピー? どうしまして?」
「……私の苦労はなんだったのよ!! 一発800万なのよ!?」
自らの新武器より余程凄まじい戦果を前に、ぎゃあぎゃあと喚き始める
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます