第207話 札束砲
それは、破裂音などという生易しいものではなかった。ダンジョン内に響き渡るのは、身体の奥底を震わせるような重低音。それは金属の咆哮か、はたまた歓喜の声か。耳にするだけで顔を顰めたくなるその轟音は、刹那の内に、遥か遠方に居た魔物の装甲を貫き絶命させていた。
今しがた
戦果を確認することもなく、
「どう!?」
アーデルハイト達の方を振り返り、ドヤ顔で胸を張って見せる
「大した威力ですわね……もしかすると、中級魔法に片足を踏み入れているかもしれませんわ」
「なんとまぁ……というよりも、銃はダンジョン内では効果が薄い筈では?」
アーデルハイトとクリスの言葉に、
無骨でありながらも、どこか洗練されたそのフォルム。殆ど兵器と呼んでも差し支えのない、黒く巨大な銃身。その重量も凄まじいだろうに、身の丈以上に巨大な銃を、まるで自慢でもするかのように軽々振り回してみせる
「これが私の武器、対魔物専用狙撃銃『レーヴァテイン』よ!!」
「レー……なんですって?」
「これはまた、随分とベタな名前を出してきましたね」
「れ、レレレレ、レーヴァテイン!? なにそれカッコイイイイ!!! 声に出したい名前上位のヤツ!! ズルい!! いつの間にそんなの作ったの!?」
馴染みのない言葉に微妙な表情を浮かべるアーデルハイトと、『はいはい出た出た』といった表情を見せるクリス。そして誰もが知る中二ワードに興奮する
ダンジョン内に於いて、銃などといった近代兵器の効果が薄いというのは、探索者達の間ではもはや常識だ。事実、皆無とは言わないまでも、銃を使用する探索者は非常に少ない。それでも尚銃を使用する者など、並外れた射撃の腕をもっているか、或いはただの馬鹿であるかの二つに一つだ。
だが、たった今見せられた光景には、そういった評価を一変させるだけの衝撃があった。現代に疎いアーデルハイトは特になんとも思っていなかったが、しかしクリスやリスナー達は違う。これが異常な事だということを、誰もが認識していた。
「随分前の話になるけど、構想事態は昔からあったのよ。魔物の素材を使用すれば、銃も一定以上の殺傷力を発揮するのでは、ってね。もちろん最初は注目を浴びたわ。でも銃への加工が難しい所為で、実験段階では満足な結果が得られなかった。かかるコストも馬鹿げていたしね。結果、それほど話題にならず終わってしまったの」
ダンジョンが出現した当初は、どうにかダンジョン内でも銃を使おうとする者が多かった。しかし当時は魔物素材の加工技術がそれほど発達しておらず、探索者達の実力も今程ではなかった為に、得られる素材の質も低かった。そうしている内にレベルアップという現象が確認され、近接武器を使って魔物と戦うのが主流となっていったのだ。今では遠距離攻撃と言えば、専ら弓や投槍のことを指すようになっている。
「それを掘り起こし、かつ実用段階まで仕上げたということでしょうか」
「そういうこと。うちのお抱え技術者と長い間研究して、漸く形になったってところよ。まだまだ改良が必要な部分も多いけど、一先ずはちゃんと通用するみたいね」
どうやら実際に使ったのはこれが初めてらしく、先のドヤ顔は強がり半分であった様子。
これまで彼女が使用していたのは、ごく普通の対物ライフルであった。ダメージこそ通りにくいものの、その物理的な衝撃自体は魔物相手でもきちんと作用する。故に牽制や、数が多い代わりに個々の耐久力が低い魔物の処理を
「淫ピー、実は結構凄い方でしたのね……」
「別に私が開発したわけじゃないわよ。私はただ、資金と素材を出しただけ」
「そうだとしても、十分凄いことだと思いますよ。これ、探索者業界を大きく発展させる可能性を秘めているのでは?」
魔物素材と高度な技術を必要とする以上、量産化は難しいかもしれない。だがこの『レーヴァテイン』は、探索者にとっての大きな武器となる可能性があった。無論射撃の腕は必要になるだろうが、パーティの後衛に持たせれば大きく戦力が向上するだろう。そう考えて発したクリスの言葉は、しかし
「ああ、それは多分無理ね」
「あら? どうしてですの? 銃とやらのことをあまりよく知らないわたくしでも、便利な武器だと思いましたわよ?」
「だって、今の一発で800万円するのよ?」
こともなげにそう言った
「つまり『札束ビンタ』ならぬ『札束砲』ですね」
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