第168話 大規模合同探索
複数のパーティで同時にダンジョンへと挑む事自体は、実はそれなりに行われている。当然ながらそういった行為にはデメリットも存在するが、それでも探索者にとって最も重要な要素、『安全』を買うことが出来るからだ。
『大規模合同探索』、通称『レイド』などと呼ばれるそれは、異世界方面軍が
拾得物に関してはそれぞれに所有権があるし、最終的に分配するようなこともない。そんな、一見すればなんのメリットもないように感じられる『
ダンジョン内部は基本的に入り組んでおり、また場所によって魔物の数も異なる。そういった大量の魔物が出現するダンジョンに於いて、少数のパーティだけで探索をするという事はそれだけでリスクたりうる。
これが仮に渋谷ダンジョンのような、常に大勢の探索者で賑わっているダンジョンならば、わざわざ声をかけて探索者を集める必要などない。謂わば常に『
つまり大勢でダンジョン探索に赴くということは、ただそれだけで一定の『安全』を得られるということに他ならない。無論、その分採取出来る資源の数などは減ってしまうが、しかし探索者にとっては『安全』以上に優先するものなどあるはずも無い。協力して探索するもよし、いざという時の退路確保を他の探索者に担ってもらうもよし。ダンジョン内での『生存率』を高めるという点に於いて、人数は大きな武器となるのだ。
こうした『
探索者協会軽井沢支部が主催した今回の『
だが、ホームとして定着している探索者はそれほど多くなかった。過疎とまでは言わないが、しかし人気ダンジョンと呼ぶには程遠い。そしてその理由は至極単純、つまりは得られる資源が微妙だったからだ。一応軽井沢ダンジョン特有の資源も存在しており、買い取り価格も相応に高額ではある。だがその他に得られる資源の価値が低く、副産物としては期待出来るようなものではなかった。結果として実入りは少なくなり、敢えて軽井沢に挑む理由にはならないというわけだ。
ダンジョンとは命がけの危険な場所。難易度によって程度に差はあれど、それはどこのダンジョンでも同じ事だ。如何に景観が優れているからといって、見返りがないのでは探索者は寄り付かない。彼らは何も、趣味や暇つぶしでダンジョンに潜っているわけではない───無論そういった者達も少数ながら存在するが───のだ。ついでに都心からは少々距離があることも、理由の一つとしてあるのかもしれない。
そんな軽井沢ダンジョンの現状を変えようと、軽井沢支部は今回の『
このように、『
そうして呼ばれたパーティの一つに『†漆黒†』も含まれていた。この一年の間で参入したダンジョン配信者としては、凄まじい人気を誇っている彼ら。メンバーの容姿もさることながら、探索者としての実力も申し分ない。年齢層も若く、ベテランの探索者より比較的フットワークが軽いこともあった。職員の中にも彼らのファンは多く、言い方は悪いが『客寄せパンダ』としてこれ以上無いパーティだったのだ。そうして参加を打診してみたところ、思いの外すんなりと承諾を得られたというわけだ。
彼ら目当てで集まった探索者も少なくないだろう。結果、軽井沢に集まった探索者パーティの数は29組。人数の内訳にはばらつきがあるが、大凡100人強といったところだ。
企画の意図としては支部の活性化が主ではあるが、それとは別に、参加者達へ向けた一応の目標も設定しなければならない。集まった探索者達もそうした協会の意図は感じ取ってはいるが、極論、支部の活性化など彼らにとってはどうだっていいことなのだから。そうして協会が提示した目標が『
オウルベアは梟と熊をかけ合わせたような魔物であり、3メートル近い巨大な熊の身体に、梟の顔を持つ魔物だ。近年ではファンタジー作品でも度々見られ、それなりに高い知名度を誇る魔物でもある。創作物の中では様々な特殊能力を持っている場合が多いが、しかし現実に現れたオウルベアはそうではなかった。戦闘能力は高いものの、これといった特殊な能力を持っている訳ではない為、探索者界隈では比較的戦いやすい魔物とされている。その鋭い爪や鋸状の嘴は武器に利用され、そうして作られた装備は比較的安価だ。故に、初心者から中級者までの探索者にとっては有り難い存在だともいえるだろう。
今回は新規参入探索者の増加を狙っての『
そうしていよいよ始まった『
その際、彼らのあまりの人気ぶりに、嫉妬の目を向けるパーティがいた事には誰も気づいていなかった。
今回の『
そうして順調に進んでいた『
24時間体制で待機していた協会の元へと、ダンジョン内部を探索中のパーティから救援要請が入ったのだ。曰く、多数のオウルベアに追われており非常に危険な状態だ、と。自力では撤退が難しい為、応援を送ってほしいとのことであった。
報告を受けた協会職員達は当初、付近の探索者達を向かわせようとしていた。だが救援依頼を送ってきたパーティはそれなりに実力の高いパーティであり、それが危機的状況にあるのだとすれば、下手なパーティを向かわせては二次災害を引き起こしかねないと判断した。そうして彼らの救援役として白羽の矢が立てられたのが、比較的近くに居た『†漆黒†』だった。
現場は丁度ダンジョンの中間地点であり、このまま放置していては深層にいる探索者達が取り残されてしまう。運悪く群れに遭遇しただけなのか、それとも何かしらの
そうして、彼らは人の悪意に晒された。
現場は多数の魔物に支配され、より奥に進んでいた探索者は取り残されることとなった。
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