第164話 スネーク・バインド
「嘘だろ!?何でこんな所に!?」
「こんな……そんなの聞いたことない!!」
それはファンタジー作品ではすっかりお馴染みとなった、強力な魔物の代表格といえるだろう。
アーデルハイト達が元いた世界に於いても、
こちらの世界での
目撃例があるのは世界でも三箇所のみ。
一つはイギリス。
『嘆きの渓谷』とも呼ばれる、スコットランド南西部に位置するグレンコーに出現したダンジョン。世界中のダンジョンでも最高クラスの攻略難度を誇ると言われるそこは、一定の階層を越えた時点から
一つは日本。
ダンジョン大国として名高い日本でも、探索者の数が最も多いと言われている渋谷ダンジョン。つい先日、『勇仲』と『
ここでは階層主として
最後にアメリカ。
アリゾナ州北西部に位置する、グランドキャニオン国立公園内に存在するダンジョン。だがここもグレンコーと同様、洞窟型のダンジョンではない。『
つまり
もしかすると他のダンジョンにも生息しているのかもしれない。だが少なくとも、現在判明しているのはこの三箇所だけであった。それにも関わらず
そして今、一行の前に姿を見せた
無論、神戸ダンジョンでは目撃報告など一つもなかった。そもそも
「あの羽の色……変異種か」
額から冷や汗を流しながら、シモンが呻くようにそう呟く。
変異種とは、通常の個体とは異なる特徴を持つ魔物のことだ。変異種の魔物は通常の個体よりも強いことが殆どで、場合によっては特殊な能力を備えていることすらある。アーデルハイトが伊豆で出会った、変異種のローパーもそうであったように。
発生する条件などは全くの不明であり、そもそも遭遇すること自体が稀。だが一度発生すれば、討伐の為だけに臨時パーティが組まれるほどの脅威である。
ただでさえ厄介な
『ほぅ、グリフォンですか……』
『ぶら下がりエルフ、かわヨ』
『オイオイオイ……』
『毎度毎度、よくもまぁトラブルばかり……』
『え、草原でグリフォンって流石にヤバくない?』
『またまたぁ……え、これマジでヤバいんか?』
『そこまで詳しくない俺でもヤバいと分かる』
『そもそもの討伐難度はAだけど、それは閉所での話』
『自由に飛び回れる場合、討伐難度はS以上って言われてる』
『こういうヤバさが伝わり難いのが異世界方面軍の弱点』
普段は呑気に視聴している団員達にも、今回ばかりは流石に緊張感が広まってゆく。だがそんな状況の中にあって、アーデルハイトとクリスの二人はまるで驚いた様子を見せなかった。クリスに至っては、肩を竦めて呆れているほどである。
「なんというか……我々はダンジョンに入る度に異常事態と遭遇している気がしますね。稀な現象だと聞いていたのですが……」
「素晴らしいことですわね!わたくしの溢れ出る高貴さが、望まずとも撮れ高を引き寄せてしまうのかもしれませんわ!望んでましたけれど!」
「そんな馬鹿な、と言いたいところですが……今回は例のあの『匂い』もしませんし、本当に引き寄せているとしか思えない程です。ある意味、ダンジョン配信者としては最高の演者ですね……」
「何れにせよ、このチャンスを逃すわけには参りませんわ!!撮れ高の糧として差し上げましょう!」
改めて、アーデルハイトを配信の世界に引きずり込んだのは間違い無かったと思うクリスと、そして望み通りの展開に意気込む撮れ高モンスター。そんな二人が呑気に会話をしている間にも、変異種の
「ちょ、ちょっと!そんな悠長な事言ってる場合じゃないですって!?」
ツバメの言葉に顔を向ければ、
「ふむ……アーデよ。実はわたし、高いところが苦手だったりする」
「あら、樹上に住まうエルフにしては意外ですわね?貴女らしいといえばらしいですけど……まぁ少しお待ちなさいな。今降ろして───」
「おしっこ漏れそう」
「そこで漏らしたら承知しませんわよ!!」
ぶるり、と小さく身震いをしてみせるオルガン。仮に今の位置関係で粗相をしようものならば、真下にいるアーデルハイトはしこたま浴びてしまうことだろう。視聴者の中にも何人か存在する上級者であれば、或いはご褒美になるのかもしれないが───しかしアーデルハイトにそんな趣味はない。
ゆっくりと上昇を始めた
「捕縛しなさい!!『
アーデルハイトが動いた瞬間、警戒していた
「ふんっ!」
かつて戦った際は、アーデルハイトの怪しい必殺技にて一撃のもとに両断されてしまった毒島さん。だが毒島さんはアーデルハイトですら見たことが無い魔物の成れの果てであり、かつ伊豆ダンジョンの主でもある。魔物としての格は本来、
下方から加わった慮外の力により急激にバランスを崩し、がくりと高度を落とす
「お死にあそばせ!!」
そんな物騒な一言と共に、右手に握ったサービスエリア産の木刀が打ち付けられる。そしていつぞやの時と同じ様に刀身が圧し折れ、粉々に四散した。
「あ゛ぁーっ!!わたくしの新しい相棒がっ!!」
『草』
『(そら)そうよ』
『この光景、前も見たな……』
『そうなるの分かってただろ!!』
『あ゛ーっw』
『悲鳴たすかる』
『緊張感あるのか無いのかハッキリして』
『これが異世界節よ』
『どのテンションで見てればいいんだよ!!いい加減にしろ!』
そんな視聴者達の反応を知ってか知らずか、あの時と同じ様に八つ当たり気味の台詞を吐くアーデルハイト。
「くッ……わたくしの戦友をこんな姿にしたツケは払って貰いますわよ!!」
そんな台詞の内容もまた、あの時と一字一句変わらぬものだった。こうしてどこか懐かしさすら覚える展開と共に、アーデルハイトと
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