第149話 試す価値がある
「結論。この
ぺい、と
「通常の……ですか」
「どういうことですの?」
あちらの世界に於ける立場もあって、転移門を利用することが多かったアーデルハイトとクリス。当然ながら、市井の者よりもよほど転移門について詳しく知っている。そんな二人でさえ、オルガンの言葉の意味は今ひとつわからなかった。彼女達の常識で言えば、
だがオルガンはそうではないと言う。
転移門を作ったのは太古のエルフだ。同族の彼女にしか分からないことがあるのかもしれない。或いは彼女も知らず、解析の結果をただ伝えているだけなのかもしれないが。
「どちらかと言えば逆。この
「……そんなもの、聞いたことがありませんわよ?」
「私も、寡聞にして存じ上げません」
「わたしも」
どうやら後者だったらしい。
転移門の起動を妨げるという特殊な
「そもそもこちらの世界には転移門がありませんのよ?存在しないものの起動を阻害する
「わたしにも分からない。でも、これがそういった効果を持っているのは確か」
「うーん……オルガン様でもわからないとなると……」
あちらの世界に散らばる膨大な知識と技術。それらを目一杯詰め込んだロリエルフの頭脳を以てしても、謎の解明には至らなかった。
「皇国の紋章があるのはどうしてですの?」
「不明。そもそもこれは、皇国で使用されている
「んぅー……」
「結局何も分からない、という事ですね……」
アーデルハイトはうんうんと唸りながら、腕を組んで頭を悩ませる。クリスも困り顔を浮かべるのみだった。この場で最も事情に詳しい筈のオルガンですら分からないのだから、アーデルハイトやクリスに答えが導き出せる筈もない。
「というよりも、この
「ですから、そもそも転移門自体がありませんのよ」
「そう。対象が存在しない上に効果が薄い。だから余計に分からない。しぼむ」
彼女はここ2日ほど、この
「あのぉー……ちょっと気になったんスけど」
そんな折、これまで黙って話を聞いていた
「はいミギー、発言を許可しますわ」
「いやぁ……その、転移門ッスか?それって、まだ存在しないとは限らないんじゃないッスか?」
そんな
「転移門は結構なサイズですの。こちらの世界に存在するのなら、使い方は分からずともきっと大ニュースになっていますわ。それこそ、ミギーが知らない事が証拠なのではなくて?」
「いや、お嬢忘れてないッスか?こっちの世界でのダンジョン制覇は、この間ウチ等がやったのが世界初なんスよ?」
「……はっ!」
「……そなの?」
あちらの世界ではいくつも制覇されているが故に、その常識に染まったアーデルハイトはすっかりその事を忘れていた。彼女達が
「あ───」
「これは……先の攻略があっけなさ過ぎて、お恥ずかしながら私も失念しておりました。配信でも触れていた筈なんですが……いやはや」
「ね?どこかのダンジョンの最深部になら、もしかしたらあるかも知れないじゃないッスか。もしくはその
照れるように苦笑いをしてみせる
「それですわー!!」
「え」
「ナイスですわミギー!きっとそうに違いないですわ!!」
「えぇ……?」
適当に言ってみただけの
「どうですか?オルガン様」
「うむり。断言は出来ないけど可能性はある。というより、現状では最も価値のある推察だと考える」
「つまり?」
「試す価値がある」
これは両世界に於ける、実力と常識の差異から生まれた気づきだ。
あちらの世界出身の三人は、ダンジョン制覇をそう大したことではないと考えている。偉業には違いないが、しかし誰にも真似できないほどではないのだ。腕の立つ冒険者達がパーティを組めば、ダンジョンの踏破自体は不可能ではない。故に、ダンジョン最深部が未調査だという当たり前のことを、無意識の内に忘れてしまっていた。
無論オルガンも、
「これからの方針が決まりましたわね!」
「とはいえ、やはりやること自体は変わりませんね」
「各ダンジョンの最深部を調査。転移門、或いは
だらだらと悩んでいた空気から一転、突如として活気を取り戻した異世界方面軍。普段はダウナーなオルガンでさえも、よくみれば耳をぴこぴこと動かしている。
「では早速、次の攻略目標を決めますわよ!!」
「おー」
こうして異世界方面軍の新たな目標が設定された。最終目標がスローライフだというのは変わりないが、聖女への復讐チャンスも逃すわけにはいかないのだ。
「……そんな安直な話あるんスか……?」
そんな盛り上がりを見せる異世界勢の傍らで、ただの思いつきが採用されてしまった
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