第2話 王様からの呼び出し!?無視したらダメ……だよね?

「さて、どういうことか説明してもらえるかい?花嫁さん。」


ヤバ……滅茶怒ってる。


「えっとね、その……ゴメンナサイ。」


取りあえず謝っておく。今回に限っては私が全面的に悪い。私は素直に謝れる子なのです。


「はぁ……もういいよ。」

ひたすら謝り続ける私を見て、マックスは大きなため息をつきながら、ソファーに身体を埋める。


ここは王都にあるトーラス子爵家の屋敷の客間の一つ。主にプライベートな話をするときなどに使用されている部屋だ。

他に誰もいないので、マックスの口調も自然と崩れたものになる。


「まぁ、僕としても、アリスがあんなバカに嫁ぐなんてのは嫌だし、僕に出来る事なら協力したさ。でもね、君ならもっとうまい切り抜け方も出来た筈だろ?」


「そこまで考えている余裕はなかったのよ。まさかあのバカがあの場であんなことを言い出すなんて完全に予想外だったからね。」


私も、土下座をやめてソファーに座り直し、メイドのリズが入れてくれたお茶を飲む。


マックスの言うとおり、穏便にあの場を治める方法は、今であればいくつか思いつく。だけど、あの場では他には思いつかなかったのだ。それだけ私自身驚いていたという事で……。


「で、どうするの?」


「どうするって?」


「本当に僕と結婚する気?」


「うーん、あそこまでやっちゃったからしないわけにはいかないでしょ?知ってる?私の話したことをもとに、今度歌劇が作られるんだって。封切りしたら一緒に見に行こうね。」

「まぁ、確かにアレだけ聞けば、物語としては十分に客を呼べるよね。ほんとキミはよくもまぁ、とっさにあれだけのウソが考え付くよね。」


「あら、全部が嘘じゃないでしょ?昔馴染みなのは本当の事だし、マックスがプロポーズしてきたことだって……。」


「あれは子供の時でしょうがっ!無効だよっ!」


真っ赤になって叫ぶマックス。

からかい過ぎたよ、ゴメンネ。


「そんな事より、どうしてくれるんだよぉっ。絶対誤解されたっ!」


マックスはそう言いながら2通の書状を放り投げる。


「これは?」


「呼び出し状。国王様と……ソフィアから。」


「どれどれ。」


私は2通の書状を検める。どちらもプライベートなお茶会への招待状だった。


「まぁまぁまぁ。今回の事は私に非があるのは認めるから、一緒に行ってあげるわよ。」


「……本気で言ってるのかい?」


「本気よ?婚約者同伴でも問題ないでしょ?と言うか、どう見ても今回の事について聞かれる流れっぽいし、私が直接話した方が早いでしょ?」


「……助かるけど……ソフィアの怒りに油を注がないかなぁ。」


「そこは頑張って。今のアナタ、傍から見ればあのバカと同じことしてるわけだし。」


「聞き捨てならないな。僕のどこがあのバカと同じだって言うんだよ。」


本気で怒った声を出すマックス。


だけど私は動じずに一つの事実を突きつける。


「王女と聖女を嫁にしようとしているところ。」


ずーん、とわかりやすいぐらいに落ち込むマックス。


私はしばらくの間、どうでもいい言葉でマックスを慰めるのだった。



「して、本音はどうなのじゃ?」


目の前のひげ面のおっさん……もとい、国王様がそう訊ねてくる。


「結婚しますわよ?昨日の聞いてなかったんですか?」


「聞いておったから訊ねているのだ。お主が本気でそんな純愛ドラマみたいなことするはずなかろう。」


「ぶぅ、おじ様は私の事を誤解してらっしゃいます。」


「いいや、儂ほどお主の事を理解しておる者はおらぬと自負しているぞ?」


「ぶぅ。ソフィー、あなたのお父さんが私をいじめるよ。「お父様なんかキライ」って言ってやって。」


「ちょ、おまっ、それは卑怯ではないか!」


「ふふーん、勝てばいいのです。さぁ、ソフィー……ってどうしたの?」


私は、さっきからじーっと拗ねたような目で見てくる少女に声をかける。


「お姉様なんかキライです。ツーんだ。」


ぐっ……。


「魔王の一撃より堪えるわ……。」


私は胸を押さえて蹲る。


ソフィア王女の「嫌いです」攻撃は、クリティカルに私の心臓を抉る。


「クックック……どうじゃ、人を呪わば、というやつじゃよ。」


「お父様だって嫌いですっ!」


「ぐばぁっ!」


同じようにダメージを受ける国王。


「女性を、抱くだけの人形のように扱うような、ダメ勇者の下になんかお嫁に行きたくありませんわ。」


プンスカと怒りをあらわにするソフィア王女。


そんな私たちのやり取りをあっけにとられたように見ているマックス。


「えっと、アリス?」


どうなっているのか?と視線で問いかけてくるマックス。

しまった、存在を忘れていた。


「おぉ、そう言えばトーラス子爵を呼んでいたのじゃった。」


……ぉい、招待主が忘れんなよ。


私は自分の事を棚に上げて、そうツッコむ。



「えっと、マックスは知らなかったっけ?」


「……知らないよ。ソフィア姫とそんなに仲がイイなら……。」


後半は非常に小さな声だったのでよく聞き取れなかったけど……話したことなかったっけ?


「えっと、私が孤児だってことは知ってるよね?」


「あぁ。」


「孤児になる前……お母さんと一緒に旅してた頃の事なんだけど、ある森で、ポイズントードの毒にやられている男の人を見つけたのね。一応お母さんが持っていたポーションでその人は助かったんだけど、その人は、何故かいきなりその場でお母さんにプロポーズしたのよ。……勿論お母様は断ったけど、当たり前よね?」


そう言いながらチラッと、国王様を見ると、少し赤面している。

おのれの若さゆえの過ちにもっと見悶えるがよい。


「それでね、しばらくしてから、この国のこの街に着いたのね。だけどその時には、お母様は、流行り病にかかっていて……。」


「亡くなられたのか?」


マックスの言葉にコクンと頷く。


「で、これからどう生きていこうかと、途方に暮れていたときにね、この国の兵士に囲まれて、連れて行かれたのが国王様……お母様が最後に助けた人だったわけ。」


それからのことはよくある話だ。


母親が亡くなっていることを知った国王は私を養子にしようとしてまわりから猛反対にあい(当たり前だ)泣く泣く孤児院に入れたものの、その後もちょくちょくとお忍びで様子を見に来たりしていた。

……ちょくちょくと言うか、ほぼ毎日だったから、困惑した孤児院の管理者の面々の訴えと、側近たちの思惑が一致して、私は王宮にて働くことが決まった。

役職は王女付きの侍女……つまりソフィアの側使え、というか遊び相手だった。


「マックスと会ったのはその頃ね。」


トーラス子爵に連れられて、頻繁に王宮に出入りしていたマックス。子供にとってはあまり面白くもない場所なのだが、何故かマックスは、事あるごとに王宮に顔を出していた。


当事は分からなかったが、後になって思えば、マックスは、何処かで見かけた王女に一目ぼれをしていたのだろう。王女に一目会いたさに王宮をうろつく男の子、と言えば聞こえがいいが、やってることはストーカーに近い。


当事の私はソフィアの警護を自認していたので、怪しい男の子からソフィアを引き離すべく立ち回っていた……結果として、マックスとはそれなりに仲良くなったのだけどね。

あと、私が仲がいいから問題ないだろうと、ソフィア王女は、私が居ないときにマックスと仲良くなり、それなりの頻度で遊んでいたらしい。

私のやったことは完全に裏目に出たという訳だ。


それからしばらくして、私は聖女としての資質が認められ、孤児院を出て神殿入りすることになったが、国王様は相変わらずで、ソフィアも懐いてくれていた。

神殿としても、王家の覚え愛でたい私のおかげで、寄進が増えたので、積極的に王宮へ出入りするように言われていた。


そんな、どこにでもある幸せな日常が崩れ去ったのは、一つの神託の所為。


『魔王が暴走を始めた。勇者と共に討伐に向かえ』


この神託を、私が受けたばかりに、今までの生活は幕を閉じ、私は聖女として祭り上げられ、勇者が現れるまでしばしの時を待つことになった。


「まぁ、後は、あなたの知っている通り、勇者は魔王を討伐出来なかったものの、封印することに成功し、この国は、世界は救われた。勇者は王女を嫁にと望み、ついでにパーティ内一の美女である聖女も、モノにしようと企むが、それを横から現れた貧乏子爵がかっさらっていった。……今ココ。ね。……という訳なの、分かった?」


「......思った以上に厄介なことに巻き込まれたことだけは分かったよ。後、貧乏で悪かったな。」


「まぁまぁまぁ。」


私はむくれるマックスを慰め、それを面白そうに眺めるソフィアと笑顔を交すのだった。

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