聖女は勇者を振って錬金術師を目指します。
@Alphared
第1話 結婚相手は勇者?いいえ、貧乏子爵です。
「結婚しよう。」
そう言われたときの私の絶望感を誰が共感してくれるのだろうか?
「えっと、その……あなたはこれから王女様と婚約を執り行うのでは?」
周知の事実を突きつけてみる……が無駄だった。
あろうことか、目の前の男はこんなことを言いやがったのだ。
「勿論、王女との婚約は執り行うさ。だけど、俺様は世界を救った勇者様だぜ?嫁が何人いてもいいじゃないか?」
と……。
私はそっと周りを盗み見る。
ずらりと並んだ貴族たちが、目の前の男……勇者アルダスの言葉に笑顔を引きつらせている。
そう、目の前の男は、紛う事なき伝説の勇者その人である。
そして私はその勇者パーティの一員、聖女アリーシア。
つい先日、魔王を封印し終えてこの王都に凱旋し、今は国王様に謁見するところなのだ。
因みに、他のメンバーは「めんどくさいからパス」と全てを私に押し付けて逃げ出している。
本音を言えば私も逃げ出したかったが、誰かがこの
こんな事なら私も逃げ出せばよかった。
大体、この馬鹿はいつもこうなのだ。
旅の間に、私や魔導師のヘレンに夜這いをかけて来たことは数知れず……その度に撃退し、さらし者にしてやったのだが、この馬鹿は1刻もすればすぐにきれいサッパリと忘れるという特殊能力を持っているのか、反省という言葉を知らず、同じことを繰り返すのだ。
それがパーティ内の事だけであれば、まだよかったのだが、このバカは、街で、村で、行く先々で気に入った女の子を見つけると、所構わず手を出し、口説いて回るという無節操さ。
しかも、「勇者たるもの当然の行いだ」と言って、街や村で、各家に無断侵入し、家探しをしては金目のものを奪ってくるという、傍若無人さ。
その後始末をするのはすべて私の役目……何度息の根を止めてやろうかと思ったことやら。
だけど、このバカは腐っても勇者であり、その強さだけは本物だった。彼なくしてはあの魔王を封印する事は叶わなかっただろう。
本人も、そのことを自覚している故のあの行動なのだから、余計たちが悪い。
っと、今はそんな事より、この目の前の事を何とかしないと。
このバカとの結婚なんて絶対嫌だ。このバカと結婚させられるぐらいならこの国を滅ぼしてでも逃げてやる。
……まぁ、そこまでするのは最終手段として、出来るだけ穏便に解決しないとね。
問題は断り方なの。いくらバカとはいえ、相手は救国の英雄、そして王女の婚約者(予定)。
下手な断り方をすると、王女や国王の体面に傷がつく。
こういう時、ホント貴族ってめんどくさいと思うけど、仕方がないよね。
さらに言えば、私は聖女とはいえ、身分としては平民にあたる。
それに対して、目の前の勇者は、現在のところ名誉子爵という一代限りの爵位を授与されている。
一代限りとはいえ、貴族は貴族、いくら、聖女が上位貴族に劣らぬ待遇を受けていても、次期国王からの求愛を受けることが可能でも、平民は平民。
貴族が権力を振りかざしてきたら言うなりになるしかないのだ。
……最も、救国の英雄となった聖女に対し、権力をかさにして言う事をきかせようなんてことを考える者はいないんだけどね……
そう言うわけで、穏便に事を済まそうとすれば、断るに値するそれなりの理由が必要なわけで……。
私はそっと周りを見まわし……救世主を見つけた。
「勇者アルダス様。申し出はとても嬉しいのでございますが、私には、無事生還した暁には結婚をしようと、約束をしていた方がおられますの。」
私はそう言って、立ち並ぶ貴族の中から一人の男性の腕を掴んで引きずり出す。
「マクシミリアン=トーラス子爵。彼が私の婚約者です。」
おぉぉぉぉ……。
謁見の間にどよめきが広がる。
そして困惑顔のトーラス子爵。
私は笑顔のまま、皆に見えないように彼の腕をつねる。
……察して、合わせなさいよっ!
「あ、あぁ、勇者アルダス殿。貴殿には悪いが、アリスとは昔から将来を約束した仲なのだ。諦めてくれ。」
「う、ウソだ!俺は信じないぞ。大体男がいるなんて一言も言ってなかったじゃないかよっ!」
「言えるわけないでしょ?トーラス家と言えば、多少落ち目ではあるものの、由緒正しき華族十家に連なる家柄。マクシミリアン様はその当主となるべき嫡男なんですのよ?いくらお金がないとはいえ、貴族は貴族。当時の私は聖女として認定されたばかりの平民です。身分差があることはお判りでしょう?」
私の言葉に、何故か胸を押さえて蹲るマックス。
えっと、もう少し元気でいてもらわないと困るんですけど?
その後、私の口から、幼き頃の純粋な想いを育んできたこと、立ち塞がる身分の壁を乗り越えるべく努力した日々、勇者パーティに迎え入れられる事になって交わした約束。
救国の聖女であれば、子爵家に嫁いでも問題はないだろうという事などが、切々と語られる。
その、想いのこもった言葉に、その場にいた貴族の中には涙する者もいたぐらいだ。
「魔王討伐という目的の為、勇者様と乗り越えた試練の数々。もうだめだと思った時、最後の力を与えてくれたのは、いつも心にあるマックスへの想いでした。勇者様との冒険はここで終りますが、私、聖女アリーシアは、勇者様の今後の活躍を遠くから見守ってますわ。」
見事なまでのカーテシーを披露すると、その場を埋め尽くすほどの盛大な拍手が巻き起こる。
流石に、このような状況では、唯我独尊の勇者でも黙るしかなく、私は無事に切り抜けたのだが……。
ちらっと横を見上げると、謎の衝撃から立ち直ったマックスが、見たことのないような笑顔を見せていた。けど、……目が笑ってないよ?
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