第3話 オギャギャ
ん?
視界がぼやけている。どうやらプレイ中に寝落ちしてしまったようだ。もしかしてものすごい延長料金を取られたりする?
評価の高い店だからそんな悪徳な方法で荒稼ぎをしないと信じたい。
ひとまず起き上がって残り時間を確認したところだが体に力が入らない。残業続きで身も心も擦り減ったところにめぐみさんの膝枕が効いたようだ。
たしかに心は満たされているし人生の目的も決まった。だけど、どんなに赤ちゃんになりきっても根本的な部分ではしっかり成人した男だ。やはり最後までできる店なら最後までシたい。
「あ……あぎゃ」
どうやら俺はものすごく赤ちゃんプレイの適性があるようだ。こんな状況でもちゃんと赤ちゃん言葉を自然と発している。意志と関係なく出るんだから天才の域に達しているかもしれない。
今の俺は赤ちゃんだからめぐみさんに全てを任せる形になるのかな。完全に受け身でされるがままに気持ち良くなる。最高だ。
だからその前に残り時間を確認したい。一旦赤ちゃんであることは忘れて、己の欲望を満たし発散する一人の独身男性に戻るんだ。
「おぎゃ……あっ……あー!」
おいおいおい。我ながらすごいロールプレイだ。こんなピンチに陥っても赤ちゃんを貫くなんて。
待てよ。もし残り時間がわずかだったり、そもそも時間切れならめぐみさんが何か言うんじゃないか。延長料金をふんだくるにしてもいつまでもオムツを履いたおじさんと膝枕し続けるのは辛いだろう。
そろそろ頭を切り替えてめぐみさんに残り時間を確認しよう。こんな風に赤ちゃんでいられる時間は限られているんだ。
「ばぁ! きゃいきゃい」
…………おかしい。必死に声を出そうとしてもなぜか赤ちゃん言葉になってしまう。それに手足もバタバタと動かすことはできても起き上がることができない。20代の頃は平気だった残業も30を超えると厳しいのかもしれない。体の衰えを赤ちゃんになった時に感じるというのは不思議な気分だ。
「あぁい!」
部屋が明るくなっている。視界はまだぼやけているけど明るさはわかった。薄暗くもどこか暖かみのある照明から一転、はっきりと室内を照らしている。
もしかして俺は思っている以上に長時間意識を失っていた?
延長料金どころか救急車を呼ばれていろんな人にオムツ姿を晒して、しかも仕事は無断欠勤。あとで理由を正直に説明したら社会的に死ぬやつだ。
こうなったらせめて、せめて最後にめぐみさんのおっぱいを揉みたい。この手に感触を焼き付けて、赤ちゃんだと思い込んだまま死ぬ。そうだ。赤ちゃんになれば何もわからないまま終われる。
「わっ! すごい」
めぐみさんとは違う女性の声が聞こえる。やっぱり救急車が来たんだ。それも女性隊員がこんな店に。
女性への配慮にはなっているだろうけど、当事者である俺は心に大ダメージを負っている。残念ながら俺は恥ずかしい恰好を見られて性的興奮を覚えるタイプじゃない。
めぐみさんみたいな母性溢れる人の前で赤ちゃんになることに意味があるんだ。
「おっぱいが飲みたいの? たしかに毎日ちょっと染み出てはいるけど……飲める?」
授乳プレイ!? 全身から溢れる母性はリアルに母親だったからなんだ。子供を育てるために見ず知らずのおじさんを赤ちゃんに見立てているなんて、苦労しているんだな。
一人の社会人としてちょっと同情はするが、今の俺は赤ちゃんだ。おっぱいを飲ませてくれるならぜひ飲みたい!
赤ちゃんがおっぱいを飲むのは自然なことだからだ。
「最近張ってるから、ちょうど良いのかも」
まだ視界がぼやけているが、目の前に大きなおっぱいらしきものを確認できた。手でしっかりと掴んでうっすらと目視できる茶色かかったピンクの突起に吸い付けばいい。
頭ではなすべき行動がわかっているのにそれを実行に移せない。腕の歯止めが利かなかった。おっぱいに触れたいのにそれを通り越して万歳みたいな姿勢になる。微調整が出来ずゼロか百かみたいな動きしかできない。
「あっ……んま」
めぐみさんに助けを求めようにも発せられるのは言葉にならない音ばかり。ここまで赤ちゃんになりきっているとプレイとして成立しないんじゃないかという不安すらよぎる。
「よしよし。今飲ませてあげるからね。んしょ」
おっぱいが向こうから近付いてきた。振り上げた腕を気を付けの状態に戻すと自然と柔らかいものに当たり、意志ではなく本能で揉みしだく。力を入れ過ぎず、かと言っても弱くもなく。我ながらちょうどいい加減でおっぱいを揉んでいると思う。
「んっ! くすぐったい」
口の中に広がる甘いミルクとめぐみさんの嬌声が股間をムズムズと動かす。すでにパンパンだと思っていたけど、さらにその上の段階にまで成長した。俺はめぐみさんの母乳で育っている。完璧な赤ちゃんプレイだ。
ちゅうちゅう。ちゅうちゅう。
無我夢中とはこのことだ。俺の頭は今、おっぱいで満たされている。おっぱいおっぱいおっぱい。
IQがどんどん下がっているからこそ素直に幸せを享受することができる。赤ちゃんは素晴らしい。
悩みも不安も全てが無になり、目の前にある幸福にだけ集中していた。
「お腹が空いてたんですね。よかった。母乳が出て」
「あいっ!」
いくら幸せでも吸い続けるのは難しい。一瞬だけ口を離して元気に答えた。さて、そろそろオムツの中がキツくなってきた。
十分に赤ちゃんは堪能したし、今度は赤ちゃんらしからぬ大人の行為を楽しみたい。
「ばっ! あっ、あっ!」
腰を動かしてめぐみさんにアピールする。次は下半身を甘やかしてほしい。心は赤ちゃんでも体は大人。ヤることはしっかりヤれる。
「どうしたの? ん~~~? あっ! オムツ?」
「あーい!」
さっきまで赤ちゃんプレイをリードしてくれていためぐみさんが戸惑いながらも俺の意志を汲んでくれた。もしかして赤ちゃんの完成度が高すぎた?
他の客はもう少しちゃんとした言語を交えながらプレイに興じているのかもしれない。
次来た時は気を付けよう。赤ちゃんと大人のメリハリを付けてスムーズにプレイを進める。120分は長いようで夢中になっていればあっという間に過ぎ去ってしまう。仕事仕事で体感時間が長い日々を過ごしていたから忘れかけていた感覚だ。
「サイズ合うかしら……う~ん。ちょっと小さいかも。でも引っ張れば」
オムツを交換するつもりなのか? 何か出してしまった自覚はないんだけど……。
それとも交換した上で俺の想像を超えるテクニックを味合わせてくれるのかも。期待に胸が躍る。
「ちょっと待っててね~」
ベッドに俺の頭を下ろしてめぐみさんは立ち上がった。ぼやけていた視界がだんだんと戻りつつある。さっきまで薄暗かったのと赤ちゃんになりきってすぐにベッドに横になったから部屋の中をあまり見ていなかった。
めぐみさんが準備している間にどんな物があるのか確認しようと首を横に向けると、どうにも見覚えのない本物のベビーベッドが目に付いた。
いくらなんでもベビーベッドがあれば部屋に入った段階で気が付くはずだ。俺がちょっと意識を失っている間に準備をしたとも考えずらい。
「さあ、スッキリしようね~」
ビリビリとマジックテープが剥がされる音と共に股間がスース―するのを感じた。一切の躊躇いもなくオムツを脱がされてギンギンになった俺のアソコは丸出し状態だ。ベビーベッドの謎なんて簡単に吹き飛んでしまう。
「あれ? 汚れてない? オムツじゃなかったのかな?」
そう言って再びオムツを装着されてしまった。もしかしてオムツの中に排泄するのもプレイの一環なのか?
さすがに人としての尊厳が……いや、しかし、オムツはそういうために着けているものだし……赤ちゃんの自分と大人の自分がせめぎ合い脳内でバトルを繰り広げる。
「本物のご両親が見つかるまでうちにいて平気だからね」
……は? 両親? 親にこんな姿を見られたら一家心中するレベルだ。めぐみさん、それはあまりにも鬼畜過ぎるよ。
「おぎゃ、ぎゃっ! んばぶっ!」
必死に抵抗しようにもやっぱりきちんと発声ができない。体も思うように動かせないし、いくらなんでも赤ちゃんプレイにハマり過ぎだろ俺!
「あらあら、どうしたの? まだお腹空いてるの?」
めぐみさんの顔が近付いてきてようやく視界が開けてきた。ぼんやりとして見えていなかった世界がハッキリと輪郭を持って気付いたことがいくつもある。
まず、明らかに案内された部屋ではない。照明だってごく一般的な家庭のものだし、何より窓がある。外から誰かに見られたら社会的に死ぬのは確定だ。
謎のベビーベッドも見間違いではなかった。本物の赤ちゃんが使う小さいベッドにはぬいぐるみも置かれていて育児用品の様相を呈している。
そして1番の発見は……。
「ん~~~? 自分で泣きやんで偉いね~。きっと両親もすぐに探してくれるよ」
俺に母乳を与えてオムツを脱がせた女性がめぐみさんではないということ。
大きいのはおっぱいだけではなくてお腹もだった。母乳が出たのはきっとそういうことなんだろう。
本物の赤ちゃんよりも先に母乳を飲んでしまったのは申し訳ない。でも、乗り気になって胸を押し付けたのはこの女性だ。俺はされるがままだった。
きっと心優しく赤ちゃんプレイに理解がある女神みたいな性格なんだろう。どういうわけか部屋を移動しておまけに対応してくれる女性も変わっているが、法的に裁かれるような展開にはならないと信じたい。
問題はそこじゃない。彼女の顔立ちは整っていて間違いなく美人だ。めぐみさんと雰囲気も似ている。明らかに違う点があるとすれば……
ほんの少し人類よりも耳が長いところだ。
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