第2話 ママのぬくもり

「靴を脱いだらベッドに座って待っててください」


「あい!」


 案内された部屋は薄暗く、照明はイメージしていた夜の店と違って落ち着いた暖色系だった。どこか家庭的な雰囲気もあり、それがかえっていやらしくもある。


「部屋は寒くないですか?」


 緊張で少し指先が冷たい。服を脱いだらもう少し寒くなることも予想はできたがこれからやることを考えれば妥当な気温だと思う。俺は元気よく返事をした。

 人が肌と肌を重ねれば暑くなる。そういうものだ。子供用みたいな可愛らしいベッドに腰を下ろしならが期待に胸を膨らませる。


「それじゃあまずはお着換えしましょうね~。ごろんてして」


 言われるがままベッドに横になる。我ながらずいぶんと聞き分けのいい赤ちゃんだ。ここら辺は時間の兼ね合いもあるから駄々をこねている場合じゃない。120分もあると言ってもどんな感じで時間が過ぎていくかは全くの未知数。

 お店側に任せるべきところと自分の欲望を発散するところを見誤ってはいけない。


「いい子でちゅね~。まずは上から脱ぎ脱ぎしましょう」


「あいっ!」


 めぐみさんが脱がせやすいように万歳の体勢になると、彼女は股間に馬乗りになってワイシャツのボタンを1つずつ外していく。

 誰かに服を脱がされていくのは恥ずかしいと同時に、めぐみさんの指が肌をなぞるたびに赤ちゃんらしくからぬ嬌声を上げてしまう。


「あれあれ~? マモルくんは赤ちゃんなのに変な声が出まちゅね~? それに、なんだかここが固いでちゅよ?」


 スラックスの上から股間をなぞられて反射的に腰をのけぞらせてしまった。その勢いでめぐみさんの体も突き上げられて大きな胸がぷるんと跳ねた。

 その迫力に目を奪われて自分が赤ちゃんであることを忘れかける。


「赤ちゃんなのに視線がいやらしいでちゅよ? オムツを履いて自分が赤ちゃんなのを思い出してくださいね?」


「え? お、オムツ?」


「ん~? 空耳かな~? 赤ちゃんが喋ったような気が」


「ばぶっ! ばぶばぶ!」


「可愛い赤ちゃんでちゅね~。よしよし。今からオムツを履かせてあげまちゅからね」


 赤ちゃんになって存分に甘えるのかと思いきや意外にも赤ちゃんでいることを強制させられている。包容力のある肉付きと声とは裏腹にS気質なようだ。

 

 下半身の方からカチャカチャと金属音がする。めぐみさんが作業しやすいように若干腰を浮かせるとベルトはするすると引き抜かれた。


「一旦ぜーんぶ脱がしちゃいますね~」


 ためらうことなくパンツと一緒にスラックスは下ろされ股間に涼しい風が当たる。熱を持っているから余計に風の冷たい。


「元気いっぱいでちゅね~。でも今は……」


 めぐみさんの顔が近付く。


「が・ま・ん」


 耳に息がかかると脳がぐちゃぐちゃになるくらいの刺激が駆け巡った。緊張よりも期待が上回って指先までしっかりと温まっている。


「どうしても我慢できなかったらオムツの中に出してもいいですけど、それじゃあつまらないでちゅよね~?」


「あいっ!!」


 ここ何年かで1番良い返事だと思う。めぐみさんがどんなに責め立てたとしても絶対に堪える。その決意を舌足らずな声に込めた。


 めぐみさんによってオムツを履かされる。下着とは違う紙感がむずがゆい。パットも普段はない物だから股間に違和感を覚える。


「上手にお着換えできました~。いい子いい子してあげまちゅね~」


 ベッドに腰掛けためぐみさんは俺の頭を持ち上げて太ももに置いた。おっぱいを見上げる形になりその大きさを改めて実感する。

 オムツ一丁の成人男性がおそらく年下の女性に膝枕をされているこの状況。誰かに知られたら社会的に終わる。

 そのスリルと高いお金を払っているという事実が俺のストッパーを壊した。


「あんっ」


 心の赴くままにおっぱいを揉む。エプロンのごわごわした手触りの向こう側に感じる確かな柔らかさ。直に揉むよりも変態じみていて興奮する。

 欲望を満たしていく度に今まで積み上げてきた社会的な何かが崩れていくこの感覚が堪らない。


「マモルくんはおっぱいがしゅきなんでちゅか?」


「あーいっ!」


「変態な赤ちゃんでちゅね~。そんな変態さんにはお仕置きです」


「……っむぐ」


 おっぱいに押し潰された。エプロンごとなのでしっかりと顔が覆われて息ができない。苦しいのに幸せ。いっそこのまま死ねばもう残業で心を削られることなく、幸福な気持ちで人生を全うすることができる。


「おっぱいうれちいでちゅか~?」


 声を上げることができない俺は薄れていく意識の中で肯定の意志を示すためにめぐみさんの体を抱きしめた。もうこれでおっぱいは俺から離れることはできない。


 赤ちゃんが母親に抱き付くのは自然なことだ。俺はちゃんと赤ちゃんになっている。


「あまえんぼさんでちゅね~。ママのことだいちゅきでちゅか~?」


 さらに力強く抱きしめると、めぐみさんに耳元に息を吹きかけた。赤ちゃんになっているのに呼び起こされる男の衝動。このギャップが楽しくなってきた。


「ママ、マモルくんと一緒に気持ち良くなりたいなぁ。いい?」


 おっぱいの中で頷いて、彼女の体を抱く腕の力を弱めた。

 一緒に気持ち良くなるのは今の体勢では少々厳しい。赤ちゃんだけどそういうことはわかる。


「んしょ」


 めぐみさんはエプロンの肩紐を外し、その下にまとっていたキャミソールも肩から脱いでいく。


「わぁ」


 布によるガードを失った生乳はその圧倒的なボリューム感で俺の理性を破壊した。ただ本能のままに胸をわし掴みにして先端に吸い付いた。


「んあっ! マモルくん、激しいよ」


 こんなに大きいおっぱいを吸えるなんて夢にも思っていなかった。残業続きで心が削られたからこそこの店に来ようと思ったし、めぐみさんに出会えた、社畜も悪いことばかりじゃない。


 また来よう。俺の人生の目的はここにある。まだプレイは始まったばかりだというのに心は完全に満たされていた。

 目を閉じると幸せで全身が包まれていく。


 ここ何年も感じることのなかったぬくもりに安心した俺の意識は、いつの間にか遥か遠くへと飛んでいた。

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