第25夜

 『だめだよ。絶対無理。駅までなんか行けないよ。あの暗闇に何かいるもん』


 本能が叫ぶ。本能が体を動かす。弓子はもと来た道を戻る。出てきたばかりの社屋に向って。急ぎ足で、徐々に早足で。


 闇がゆっくりと追いかけてくる。社屋の職員通用口の前、バックの中を探るがあるはずの鍵が見当たらない。闇が近づいてくる。社内に逃げ込む時間さえない。走って逃げる。


 7分程走った。もう駅前のビル街を抜けて都道までたどり着いた。通常は車が多い都道でタクシーに逃げ込むもりだった。


 でも頼りの都道にも、今夜に限って車が走っていない。ぼんやりと周囲を照らす街路灯が夜の虫を集めているだけである。


 止まってはいられない、都道沿いに走る。恐怖を包む闇が迫ってくる。助けを求めるために、明かりを人家を探した。


 体が震える。冷汗に全身が濡れる。息が切れる。心臓が爆発しそうだ。都道の脇道から入る先に人家らしき明かりが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る