第三十一話 賑やかな家

 あれから数時間。緊急会議の末、僕の脳内から絞り出した一言の所為で、事態は急変している。なんか新しい家は建ってるしカンさんやダーさんが手掛けた広い庭もあるし、装飾が綺麗なせいで豪邸みたいになってるし。唯どうしても豪邸と言いきれず、丸太と土言わば粘土で出来たこの家は、どちらかというとテラスハウスに近い。これって僕らがいた世界にも影響するんだよね?こんな森の中に豪邸が突然現れたんじゃ今頃大スクープなんじゃ無いかな。ポツンと一軒家どころじゃ無いよね?


「あの…」


「照葉ありがとな!これだったら会議の為に一々集まる必要も無いし暇も埋まるし最高じゃん!」


「リーみたいに一人寂しく本を読む事も無くなるしやなぁ?」


「いや、本を読む時は一人にさせて。」


「照葉の部屋は三階の左から二番目だからな?もう自由に荷物置いてって良いぞ。」


「ありがとうございます、」


「ゴン、ちょっと良いか。俺の部屋が無いんだけど?」


「あぁそれは、リーがあいつは屋根の上で充分だからって。」


「おいリー⁉︎」


「アッハハハ!面積で言うたら一番広いさかいなぁ!」


「はぁ…。」


「嘘嘘、作ってありますって。此処です。」


とゴンさんが案内した所は三階の一番左端の部屋。


「あれ、部屋数が合わないぞ?」


「え、嘘?」


三階,二階には四つずつ部屋があって、一階には部屋が三つ。会議室と、厨房&食卓、後皆で自由に集めれる用のフリールーム。部屋数的には合っている筈だ。するとケンさんは同じ階の一番右端の部屋に走って行く。


「じゃあ此処は何なんだ?」


と扉を開けてみると、其処は図書室だった。図書室を作ったんなら、話は別だ。部屋数が一人足りない事になる。


「其処はうちの部屋や。」


「あ、成る程。」


「図書室かと思いました。」


「なんでやねん。」


確かに、図書室といったら本棚に本が綺麗に並べられてある部屋を想像するけど、この部屋は小さな本棚はあるけれど明らか冊数が収容量を上回っているし、床に本が散らばっている。まだ準備途中なのかと思っていたけど、まさかリーさんの部屋だったとは。


「こんなにリーさん本を持ってたんですね。」


「違う向こうから盗って来たんだよ。」


「え、」


そんな僕らを他所に皆が外に集まっている。どうやら新しく家を建てた記念に皆で祝おうと言うのだ。僕らも急いで下に降り、皆の元へ集まった。皆でご飯を食べ、遊び惚けた。此処にコンさんがいたら完璧だったのに。忘れようとしても、どうしても忘れられ無い。忘れたく無いと言う思いの方が未だ強く、もしかしたら後ろにいるんじゃ無いかと振り向きたくなる。でも、振り向いてしまったら余計悲しくなるから、振り向かない事にした。気付けば部屋割が発表されており、二階の左端から、ソンさん、ダーさん、シンさん、ゴンさん。三階の左端から、ケンさん、僕、カンさん、りーさんと並ぶ。因みにあみだくじで決めたらしいけど、結構良い配置だと思う。そんなこんなで時を過ごす間に、新しい家での初めての夜が来た。


 翌日。時間が戻ったとは言え、神の目覚めはやってくる。それまでに僕も力を使える様になっておかないと。そう思い朝から家を出た。


 家のちょっと離れたとある森。一先ず地面に手をついてみる。前のコンクリートとは違い、湿った土の感触が伝わってきた。試しに強く押し込んでみると、ぐいぐいと地形が変形していく。その面白さに調子を任せてスケールをどんどん広めていくと、終いに地面が僕と一体化していくのが分かる。コンさんの気持ちを、身を呈して感じれるなんて。


 そっか、僕はもう照葉じゃなくて"コン"なんだ。草薙照葉は僕が人間だった頃の名前…。それでふと、気付いた事がある。そういえば僕もコンさんも、人間であった頃の記憶がある。何故かはコンさんも分かっていなかったけど、コンさんに関してはまだ引き継ぎ相手がケンさんだった頃から記憶が残ってた。"坤"という力に関係があるならまだしも、そうでないとしたら何故なんだろうか。僕とコンさんの共通点。僕はコンさんみたいに双子でもないし、戦争時に生きてた訳でもない。


 そうこう考えている内に、ゴンさんの声がした。


「何してんだ!?」


ゴンさんが僕を見て驚いた顔をする。


「ちょっと考え事を、」


「いやいや、後ろ後ろ。」


そう言われ後ろを向けば、いつの間にか複雑な形をした小山が出来ている。


「あっ、さっき練習してたんだった!」


急いで元の平らな地面に戻すと、ゴンさんの苦笑いが返ってきた。


「何か悩んでたっぽいけど、大丈夫か?」


「そうなんですよ…ゴンさんは昔の記憶ってありますか?」


「昔?此処に来てからの事か?」


「いえ、それよりも前の事です」


「…覚えて無いな。」


やっぱり僕らだけだったのか。となると本当に分からなくなる。


「僕とコンさんの共通点ってなんなんでしょうか、」


「共通点?地面を操れる事。」


「それ以外でっ」


「それ以外?」


凄い頭を悩ませて考えてくれるゴンさん。しかし結局見つから無かった様で、「肌が白い」という外見的な答えしか出てこなかった。


「でもなんでそんな事気にするんだ?」


「実は、僕とコンさんだけ、人間だった頃の記憶があるんです。」


「そうなのか?」


「はい。」


「そうだったのか、あぁそれで…。すまん、話を変えて悪いが、お前の事これからも照葉って呼んで良いか?」


「良いですよ。僕もその方が過ごしやすいです。」


「分かった有難う、じゃあな。」


「何処か行くんですか?」


「一旦帰る。」


そう言ってそそくさと帰ってしまった。


 僕も後を追って帰ってみれば、もう既に皆は起きており、それぞれのルーティーンを満喫していた。僕はまた夕方頃に練習に出ればいいかと思い、部屋の片付けを始めた。


 コンさんの家と新居との往復は決して楽ではな無かったものの、力のおかげで時間はそんなに掛からなかった。まず持ってきたのは、僕が此処に来てからずっと愛用していた敷布団。それからコンさんの机、椅子一式と、特に使い道が定まらない棚。ゴンさんとの相談の上、コンさんが使っていた家具や私物は二人で分けて持っておくことにした。ってな訳で使い道の見えない家具がどんと増え、一見広い様に見えた部屋も既に息苦しく感じてきた。きっと僕の配置が悪かったんだろう。一旦自室のドアの前で休憩を取っていると、目の前を通り掛かったケンさんに、家具の配置についてのアドバイスを聞いてみた。そしたら俺の部屋を見に来れば良いと自信気に言われたもんだから、チラリと隣を覗いてみると、其処には作り建てた時と何の変わりもない、まっさらな空間があった。


「綺麗だろ?」


「綺麗ですけど、家具とか要らないんですか?」


「家具は要らん。だって照葉に借りるんだから。」


「えっ」


「あそうだ、此処の壁に窓開けない?」


ケンさんが手を置いたのは、外にに通じる外壁では無く、僕の部屋とケンさんの部屋を仕切る壁。つまり彼は今僕の部屋と自分の部屋を一体化させようとしているだ。


「それは不味いですよケンさん…。」


「流石に不味いか?」


「流石にです。」


へーと気だるい返事が返ってきたと思えば、誰もいない筈の僕の部屋からドンッと鈍い音がする。急いで戻ってみると、上に置いておいた棚がひっくり返っていた。その棚の側には何故かシンさんが立っている。


「あ、いや、その…。」


あまり話した事のない仲でこういう事をされるとちょっと、いやだいぶ気まずい。


「置いといて貰って大丈夫ですよ。」


「あ、そうか?すまんな。」


「何か用事があったんですか?」


「いやいや、そういう訳じゃ…。」


そう言いながらシンさんがゆっくりと部屋を出て行く。ドアのスレスレまでスローモーションだった癖に、完全に視界から消えた後に廊下に響き渡ったドタバタという足音を、僕は聞こえなくなるまで聞いていた。


「可笑しな人ですね。」


「ハハ、そうだろう。シンは究極の人見知りだ。そんな彼でも君の事を歓迎している様だよ?」


と、ケンさんがさっき倒れた棚を持ち上げてみると、其処には木で作られた動物の人形達が。大きな見た目と何時ものリーダー口調とは裏腹に、可愛い人形のプレゼントをして来てしかも人見知りというこのギャップに頭が追いつかない。


「可笑しな人ですね。」


ともう一度繰り返し言う事で、少しはシンさんのギャップを認める事が出来た。


「あいつは良い奴だよ。見た目はおっかないけど。」


そうなのか。これから仲を深めようという意思はあるものの、お互いが人見知りの場合どう接するのが正しいんだろうか。


 僕はまだまだ、この世界の事を、皆の事も含めて知る必要があるようだ。

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