第二話 見知らぬ人達
小屋に着くと、やっと手が離され、さぁどうぞと中へ案内される。好きに使って良いと用意された部屋は、思った以上に広く、暖かそうな布団だって敷かれていた。本当に安全なんだろうか。今日初めて会った人にする対応にしては優しすぎるだろうと逆に不審感が込み上げてくる。
「あの、今更なんですが、名前を聞いても宜しいですか?」
また相手に伝わらなかったらどうしようと声を張り上げて聞いた。どうやらしっかり相手に伝わったみたいだ。
「僕はコンだヨ。こっちは弟のゴン。僕ら双子なんダ。」
双子、と聞いてびっくりした。確かに、兄弟にしては背丈は変わらずあまり歳の差を感じなかったが、まさか双子だとは思わなかった。それもそのはず、白髪の方、コンと呼ばれる人は前髪をこちらから見て左に寄せてあり、片目を含め顔が半分隠れている為あまり顔全体の認識がはっきりしていない。それに加えてコンの目は空いているのかも分からない程細く、ほんの少し吊り気味であり、狐の様な印象である。一方黒髪の方、ゴンと呼ばれる人はノーマルで、特に説明する程特徴的な顔つきでは無い。唯、コンさんもゴンさんも顔のバランスが整っており、クラスにいればモテるだろうなという顔つきをしていた。そんな事を考えながら二人の顔を見つめていると、「僕らが双子ってのが信じられないノ?」と言ってコンさんが前髪をあげゴンさんと比較しやすい様に顔を近づける。ついでに目も開けてくれたおかげで彼らは双子だという確信がついた。しかし確信と共に疑問を感じる。前髪で隠されていたコンさんの片方の額に『☷』といった形の黒い刺青の様なものが彫られてあるのだ。
「コンさん、それ何ですか?」
僕が指摘するとコンさんは前髪を元に戻し「何だろうネェ。」と空返事をした。ゴンさんもまるで聞こえなかったかのように食事の支度を始めるが、此方が目を合わそうとしても中々合わせてくれない事から、本人の耳に届いている事は確かだ。聞いちゃ不味かったのかな。事故だったり?昔奴隷だったとか?よくそんな事例を漫画やアニメで見た事がある、実際に見た事は無いけれど。まさかそれでこんな山奥に住んでいるんだとか。兄弟で繰り広げられる感動的な奴隷からの脱出劇。僕の中で色々な妄想が膨らんで行く。その妄想は、この二人がNASAに入り奴隷だった頃の復讐を仕掛けるという展開の途中で強制終了を迎えた。
「何か勘違いしてもらわれたら困るから言うけど、僕らは裏社会の人間だとか、そういうのではないからネェ。」
コンさんがお椀にお米をよそいながらそう言った。
「んで、お前は?こっちが自己紹介してんのに、お前は言わない積もりか?」
早速よそったお米を口にしながらゴンさんがこちらに聞いてくる。
「あ、すいません。僕は草薙照葉です。高校一年生で、修学旅行で此処に来たんです。」
僕もコンさんからご飯を受け取り、話を続ける。
「途中の崖でバスが転倒してしまって、この森に…。助けていただいて、本当にありがとうございます。」
まだ心からこの人達を信用している訳ではないけれど、一応でも助けてくれた事には変わりないのだからと、感謝を伝える。
「君はバスに乗ってここへ来たノ?って事はあのバスは君のだったんダ。」
正確には僕が所有しているのでは無いけれど、相手がどれほど誤解しているのか分からなかった為触れようとは思わなかった。招かれた身として何か会話を盛り上げなくてはと話のネタを探すうちに、夕方に聞こえたゴンさんのであろう怒号を思い出す。
「そういえば、さっきの喧嘩は大丈夫なんですか?凄く揉めあってましたけど。」
「あーこの子がちょっと仕事ミスっちゃってサ。」
「だからなんで俺のせいなの!?」
「いや、お兄ちゃんよく考えたんだけどネ、僕怒られるのは好きじゃなイ。」
「それは俺もだよ?」
しまった。僕は二人の内にある何かの引き金を引いてしまったのか。またあの時と同じ会話が繰り返される。
「一体何があったんですか。」
そう聞くと、コンさんが僕に寄りかかって来た。
「実はネ、今日のお昼頃僕とゴンが散歩してたらサ、お昼ご飯を何にするかって話題になったんだヨ。」
兄に負けぬとゴンさんも寄りかかって来る。
「それでな、兄貴が甘い物派で俺が辛い物派に分かれたんだよ。」
「それで怒られるんですか?」
「まぁまぁそこまでは良かったんだけどネ、その時この子が興奮しすぎちゃって近くの木を何本かぶっ倒しちゃったんだヨ。」
「え!?」
「いいや、お前が煽ったせいだ。お前が責任を取れ。」
「この子が悪いよネェ?」
「こいつが悪いよなぁ?」
と両側から圧がかけられた。木ってそんなに脆かったっけと驚きを隠せない僕は、勿論二人が求めている返事は出来そうもない。
「木を、倒したんですか?」
「え、あぁ…倒せるよ。」
「どうやって?」
動揺を隠せないままそう聞くと、ゴンさんはちょっと来てみな、と表へ出ていく。とりあえず着いて行ってみると、小屋のすぐ近くの木に手を置く。
「この木、触って押してみ?」
言われた通りに押してみるが、木はうんともすんとも動かない。後ろでコンさんが笑っているのが聞こえるが、押して倒れるような木があるなら日本はとっくに終わっているぞと言いたくなる。
「中々倒れやしないだろ?だが見とけ。」
危ないからとコンさんに離れるよう指示される。ゴンさんは、さっきまで僕が手を掛けていた木、では無く、その木のすぐ下の地面に手を置いた。すると、何とその木が大きな音を立てて倒れたのだ。その木だけで無く、その周りの何本かも一緒に。特に強い力を入れた様にも見えなかった。
「これが、僕達が持つ力だヨ。」
すぐ後ろにいたコンさんがそう言って僕の方に手を乗せる。僕はさっきのゴンさんのこともあってその手が恐ろしく感じ、つい跳ね除けてしまった。コンさんは、言葉も出ず怯える僕に、今までと変わらない優しい笑みを返した。
「怖がらせてごめんネ。君の反応が面白かったから遊んじゃっタ。」
「安心しろ、お前さんを怪我させるような事はしねぇから。」
僕は今にも逃げ出したかった。けれど逃げ出せなかった。足が鉛のように重い。何故だろう、こんなにも逃げ出したいのに。今逃げて仕舞えば、この先もっと恐ろしい事を体験する様で怖かった。僕は、とりあえずこの人達から詳しく話を聞く必要がありそうだ。
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