僕を拾った八人の使者
夕暮 瑞樹
僕の居場所
第一話 人生初の修学旅行
皆は、彼らを知っているだろうか。自然を操る、悍ましい八人の化け物を…。
待ちに待った修学旅行。高校一年生の
「お前浮かれすぎて怪我すんなよ。」
僕とは違い強い身体を持つ兄は、僕が修学旅行に行けなくなる度、体調が戻ったら必ず代行として川や海に連れて行ってくれた。しかし今回こそその慰めは要らない。「する訳ないさ。」と陽気に返せば、後ろで大きな笑い声がした。
僕と兄は二人暮らしだ。兄は
兎も角今日はもう寝よう。明日は朝…何時だっけ?改めて栞を確認する。出発は朝五時。起きられる自信が無い為兄の分までハッキングしてアラームを五重六重に掛けておいたら、次の日の朝散々に鳴り響くアラーム、よりも大きい兄の怒号で目覚めたのはまた別の話。
いよいよ出発。家の玄関をジャンプで飛び越え、どこそこの小説の主人公になったつもりで優雅に歩きだす。後ろから僕を見送る兄が「キモ。」と言ったのをちゃんと耳にしながら歩き続けた。
「おう、お前やっと来たか。」
「え?僕ギリギリだった?。」
「いや違うよ、修学旅行にだよ。」
「あぁそうだね。めっちゃ楽しみ。」
「だろうねぇ〜楽しいぞ〜修学旅行は。」
まるで僕が知らない世界を知っているかのように、友人らは高らかに僕を迎え入れた。間違っては無いんだけど、何か腹が立つ。
「僕だって修学旅行は行けてないけど家族旅行は散々に行ったよ。」
「例のお兄ちゃん?仲良いな〜それはそれで羨ましい。」
「だろぉ?」
なんて会話をしながら、バスに乗り込む。これから五時間程かけて、目的地に向かうんだ。目的地は直島。自然豊かな長野県、上高地である。バスの座席は自由で、僕はあまり乗り物に慣れず人にも慣れない体質の為一人席を選んだ。窓から見える景色に圧巻されては寝、ふと目を覚ましまた圧巻されては寝、たまに聞こえるレクリエーションを楽しみ過ごした。そうして極快適なバスの時間を満喫していると…
キキィィィィィーーーッッッッ!!!
バスごと傾いたせいで遠心力が生まれ、身体が思わぬ方向に引っ張られた。事故ったのである。何故かは分からない。唯、崖の斜面がかなり急だったのか、車体は回転を止めない。窓ガラスが割れ、友達の悲鳴が聞こえる。僕は、自分のシートベルトを必死で握りしめながら、バスが跳ねる最後の衝撃で意識を失った。
目を覚ましたのはどれくらい後だっただろうか。腕時計を確認しても割れて短針が飛び出している為時間が分からない。シートベルトを離し、斜めになった車体の中で身を起こす。空は夕方を示す赤色で、カラスの鳴き声が響いていた。異様にも静かだ。バスの中を見渡してみると自分以外誰も見当たらない。
「皆?先生?」
もしかして救助が来て、自分だけ取り残されてしまったのか。いや、そんなはずはない。自分の席はバスの入り口や運転席にかなり近く、見落とす可能性が低い。となると、皆が僕を置いて何処かで集まっているのかも。僕は焦って荷物も回収せずバスを出た。
周りは森。何処からか水の音が聞こえるのは、きっと近くに川があるからだろう。野生の猿もいた。本当に自然豊かなんだなと感じるその森を探索するも、僕以外の人間の気配は見当たらない。色々走り回ったが、バスの近くにいるのが一番安全だろうと道を引き返そうとするも、無我夢中で走り回ったせいで帰り道さえ分からなかった。さっきまであんなに楽しみにしていたのに…。一気に雰囲気を変えた予想外の修学旅行に、膨大な損失感を抱く。一般の高校生にサバイバル知識なんぞ全く無く、もうこのまま死ぬかもしれないと薄っすら決心したその時だった。近くで話し声が聞こえてきた。話し声というか怒鳴り声。しかもその声に近づいからこそ気付いたが、その怒号が鳴る度に、地面が揺れている気がする。この奥にいるのは人じゃないのかもしれないとサッと血の気が引いた僕だが、それでも聞こえてくる会話は日本語で、怒号をあげているのとは違うもう一人の声は凄く穏やかであった為、最後の気力を振り絞って声のする方へかけてみた。
「だから、何で俺の所為なんだよおかしいだろ!」
「じゃあお互いのせいダネ?」
「なんで俺を含もうとするんだ、お前のせいだ。」
「それは理不尽だヨォ勘弁してヨォ。」
「五月蝿い。兎に角お前の所為です。絶対にお前の所為。」
「お兄ちゃん傷つくヨォ。」
人が必死に駆け寄った最中、彼らはこんな会話をしていた。そこに居たのは整えられた白髪と黒髪の二人の男性であり、“お兄ちゃん”と言っている限り兄弟なのだろう。いずれにせよ知り合いでも遊学旅行関係の大人でも無い、自分とは全く無関係の人間なのだろうと僕は認識した。息を整えて更に近づいてみると、
「あれ、君は何処の子カナ?」
と白髪が反応してくれた。
「何だ?なんでガキがここにいる?」
と黒髪も反応した。
「助けて下さい。修学旅行中にバスが事故って、森に落っこちて、迷ってしまいました。」
そう答えると、二人は不思議そうに顔を見合わせる。互いに疑問符を浮かべながら、再度僕を見た。聞こえなかったのかなと繰り返し言ってみても、反応は変わらない。もしかして聞こえてない?と同じ疑問符を浮かべ視線をあちこちに送っていると、
「なんだかよく分からないんだけど困っているんだよネ?宿が無いんダ?うち来なヨ。」
と白髪が僕に手を差し伸べる。何処がよく分からないだろうと思いながらも、その手を受け取ろうとして、引っ込めた。
「いえ、泊まるつもりは…。近くの街に、案内して欲しいだけなんです。」
危なかった。知らないお兄さん達に連れ去られる所だった。この人達は何処か受け入れやすく、危険な雰囲気など一切感じない。つい誘いに乗ってしまいそうだったが、よく考えてみれば名前も知らない赤の他人だ。
「何、もしかして怖がってるのか?安心しろ、俺たちは人間を襲うなんて趣味は無い。もう日が暮れたんだし、着いてきた方が安全だぜ?なぁ兄貴。」
「まぁそうだネェ。よし、一緒に帰ろうカ!!」
と白髪が言うと、無理矢理手を引かれてしまう。僕は、されるがままに着いて行かされ、後に、山奥の一軒の小屋に辿り着くのであった。
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