偶然

  1か月後ーー

 私は、普段と変わらない生活を送っている、はずだった。そのはずが。今、目の前でチーズケーキを私の口に運んでいるのは、あの「王子様」。なぜ、こんな状況になっているのか。順を追って説明しよう。

 先週の土曜日、所属している部活動の練習で外周をしていた。体力には自信のある私は、みんなよりも長いコースを走っていた。校庭の横を走っていた時、明らかに高校生とは違った風貌の人達が、校庭にいる様子を目にした。大学生チームかなぁ、と思っていたその時。1人の男性が転がったボールを追いかけて、こちらに近づいてくる。ぱっちりとした目に、ぷくっと膨れた涙袋、そして日に焼けた肌。彼だった。思わず、

「あの時の!」

と口に出してしまった。彼がこちらに目をやり、目が合う。

「あれ!部活中か!」

「です!今日はどうしてここへ…?」

もはや驚きすぎて普通に話せてしまっている。人間ってこういうものなのか。

「国体の練習だよ!毎年ここで練習してるんだよ〜?てか、俺も一緒に走ろっかな〜。まだ練習始まらないんだよね。」

ん?ん?!えーーーーー!!!混乱状態だった。一目惚れした、もう2度と会わないと思い込んでいた人が、なんか同じ敷地内にいて、一緒に走ると言っている。これは、、、夢!?

「走りましょー!私体力には自信あるんで、隣で見ててくーださい!」

平然を取り繕う私、よくやった。グッジョブ!!心の中でグーサインを立てる。

「あれ。そういえばあいりさんは部活何やってるの〜?」

「テニスですよ〜。ん?!なんで名前知ってるんです?!」

「いや笑。この前の発表会で言ってたでしょ笑。」

「あ、そうじゃん。私先輩の名前知らないのにー!」

「そうか笑 志宮 舜。これでどう?」

「ありがとうございます…!」

私の鼓動が速くなる。これはきっとランニングのせい。

 

10分後。

「じゃあね!あいちゃん!俺も練習行ってくる!」

あいちゃん…。ずるいでしょ、その呼び方は。そう思いながら笑顔で手を振る彼に手を振り返した。やっぱりもうばいばいかな。校庭の木々がざわめき出す。


 部活が終わってからも、私は1人格技室に残っていた。静まり返った部屋でいつも通りの黙想。木々や校庭から聞こえる声が遠ざかっていく。

 10分ほど経った頃だろうか。私は目を開け、すっと立ち上がった。そろそろ帰るか、と。階段を駆け下り、部室に入ろうとしたその時。

 「あいちゃーん!今終わりー?」

舜先輩だった。

 「あ、そうだ。これあげる!」

舜先輩が持っていたブロック型のチーズケーキを私の口元に近づけてくる。そう。これが冒頭部分の話。

 

 


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彼との夢物語。 白井 あい @Aisann

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