第4話 母の真意

顔合わせの夜、私はハヤトの部屋にいた。

ハヤトは親元を離れて一人暮らしをしている。

1LDKの3階建てアパートの1階の角部屋だ。

カウンターキッチンの奥、私は勝手知ったるハヤトのキッチンでコーヒーを入れていた。

ハヤトがソファーに腰かけて大きく息を吐いた。

「緊張した」

私はコーヒーを二つ入れるとカップを持ってソファーの前のテーブルにそっと置く。

ハヤトの隣に腰を下ろすと静かにお礼を言った。

「今日は本当にありがとう。ちゃんと挨拶してくれて」

言葉を一旦切って、私は大きく息を吸って、心持ちお腹に力を入れた。

「お母さん怖い感じじゃなかった?印象悪くなかった?やっていけそう?」

ずっと気になっていた母のことについて矢継ぎ早に質問してしまう。

ハヤトは一瞬驚いた顔をして、優しい顔をして笑った。

「お義母さん、泣きそうだったな」

私はその言葉に一瞬何を言われたか分からなかった。

ハヤトは私を見て笑顔を深めた。

「夏海はお義母さんそっくりだよ。お義母さんが眉間に皺を寄せてただろ。あの顔は夏海が涙を我慢する時にそっくりだった。だから、すぐに分かったよ」

私はびっくりした。

母と似ていると言われたことはない。

それに母が眉間に皺を寄せるのは怒った時だったはずだ。

「ハヤトはお母さんのこと知らないんだよ。お母さん笑うことなんてほとんどないんだよ。いっつも真顔で。眉間に皺を寄せるのは怒ってる時だよ!」

ハヤトは静かに首を振った。

「僕は夏海のことをずっと見てきたよ。もう8年になる。夏海の表情はよく分かってるよ。その夏海とよく似た人だった。僕は間違っていないよ。お義母さんは不器用な人なんだろ?嘘がつけない人だって言っていただろ。愛想笑いも出来ないだけだ。嘘で笑われるよりもずっといいと思わないか?」

私はハヤトの言葉に衝撃を受けた。

母の印象は幼い時から変わらない。

笑わない感情の起伏のない人だと。

嘘がつけないから愛想笑いも出来ない。だからいつも真顔だったとは思ったこともなかった。

「お義母さんのこと冷たい感じとは思えなかったよ。今度また、夏海からお母さんに色々聞いてみたらいんじゃないかな。もっと分かりあえると思うよ」

ハヤトは見る目がある。

ハヤトの彼女でハヤトのお嫁さんになる私が言うのも何だが、ハヤトは人のことを本当によく見ていて、しかも直感が優れていて大体どんな人か見抜いている。

大学の時にすごく人気のあった教授をハヤトは「僕はあまり好きじゃないな」と言った。それから1年後に生徒に悪戯をしたとして退職に追い込まれていた。ハヤトには分かるらしい、どんな人間なのか。

私はハヤトを信じている。

だから、ハヤトがお母さんと私がもっと分かりあえると言ってくれたことが本当に嬉しかった。

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