第3話 顔合わせ
少し蒸し暑い6月初めの日曜日。
私の婚約者、高木ハヤトと一緒にうちの応接間で両親と対面していた。
ハヤトも父もネクタイを締めている。
家にいるのに他所行きの格好をしている事に違和感を感じながら、私はハヤトの隣で緊張していた。
「夏海さんと結婚させて下さい!」
ハヤトは単刀直入に言った。
緊張はしているのだろうが、飄々としている彼はあまり緊張してる様には見えない。
それが私には羨ましい。
私はすごく緊張していた。
胸は早鐘を打ち、顔は強張っているのが自分でも分かった。
父も母も緊張した面持ちだ。
父が一つ頷いた。
「はい、夏海を幸せにして貰えますか?」
父は真っ直ぐにハヤトを見ていた。
真剣な眼差しだ。
父のそんな真剣な眼差しは初めてだった。
ハヤトはその眼差しを受けて居住まいを正す。
そして、父の目をみてゆっくりと声を出した。
「はい、一緒に幸せになっていこうと思います。僕は夏海さんを幸せにして、夏海さんは僕を幸せにしてくれます。お互い支え合える夫婦になりたいと思います」
父は満足気に頷いた。
「安心しました。夏海を宜しくお願いします」
私は母を見た。
母は眉間に皺を刻んでいる。
やっぱり母はこの結婚に反対なのだろうか。
母が私とハヤトに視線を向ける。
「食事にしましょ」
今日の顔合わせでは昼食も一緒にとることになった。
母の提案だった。
格式ばった母のことだ。
顔合わせ後は一緒に食事をとるのが普通だと考えたのだろう。
母がキッチンに向かう。
昨日の夜から色々と料理を作っていた。
お寿司でも取るのかと思っていたら、手作りの料理でもてなすと聞いて昨夜はビックリした。
私は急いで母の後に続く。
母は振り向きざま、「春香を読んでハヤトさんと顔合わせして頂戴。今日は貴方もお客様だから、料理の心配はしなくていいわ」と小声で言った。
その表情はあまり変わりがなく、思わず私は聞いてしまう。
「お母さんはこの結婚についてどう思ってるの?」
母は驚いた顔をして、真顔で答える。
「そんなの嬉しいに決まっているわ。あたりまえでしょ」
そんな母の言葉に少し安堵する。
母は嘘が苦手だ。
嘘をついているようには思えない。
私は心の中でそっと息を吐いた。少し硬くなっていた体から力が抜ける。
私は母に微笑んで「良かった」と呟いた。
そして、母に背を向けて春香の部屋に向かった。
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