ドリーム

「おじさんはどこ行くんですか?」

「アメリカ」

「本当?」

「本当」

「何しに?」

「運命の人を探しに」

天気ちゃんは大きな溜め息をついた。

「おじさんは、嘘つくのも下手ですね。真面目に話すんじゃなかった」

彼女は通路の方を向いて、丸まってしまった。

「嘘じゃないよ」

「じゃあ、パスポートを見せてください」

俺はパンパンのリュックを漁って、パスポートを取り出した。

「はい」

「本物ですか?」

「うん」

「どれくらい滞在するつもりなんですか?」

「何年か」

「ビザとかは?」

「よく分からないから、友達に色々教えてもらった」

「向こうに知り合いは?」

「いないよ」

「お金はどうするんですか?」

「路上ライブで稼ぐつもり。それなら、働けないビザでも、バレないかなって」

「楽器、何か弾けるんですか」

「まだ弾けないけど、ウクレレと練習本は持って行くよ」

俺は立ち上がって、座席上の荷物置きからウクレレの入った黒いケースを取り出して見せた。

 天気ちゃんは目を丸くし、それから体を折り曲げて、笑いを堪えていた。しかし、途中から耐えられなくなったようで、大笑いし始めた。もう、我慢しようともしていない。周囲の子どもが引いている。俺はどうしたらいいか分からず、彼女の笑いが止まるまで、ただ見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る