嘘つき

「天気ちゃんは、どこに行く気なの?」

「東京です」

「何しに行くの?」

「オープンスクールです」

「へー。東大?」

「違います。あとそれ、受験生には禁句です。なんかムカつきます」

「ごめん」

 ウク女トークが終わってから、突然、天気ちゃんは最初の怖いギャルに戻ってしまった。また、少し気まずい。というか、俺は高校生に色目使ってたのか。大人失格だな。

「あと、おじさん。会話下手ですね。矢継ぎ早に質問するのやめたほうがいいですよ」

「ありがとう」

 外を見ると、当然だが、俺の街と全く違う風景があった。高いビルや、上の方が斜めに切り取られたようなマンションが、やや唐突に姿を見せ始めている。大都会に近づいていることが実感できた。つまり、天気ちゃんとの旅も終わりに近づいているということだ。折角の機会だ。会ってから、気になっていることを聞いてみた。

「間違ってたら、ごめんなんだけどさ。天気ちゃん、無理してギャルしてない?」

「……。なんで、そう思うんですか?」

「ギャルなのに、礼儀正しいから」

「それ、ギャルに対する偏見ですけど」

「あと、スマホ、使いにくそうだったから。ネイル慣れしてないのかな。と思った」

「意外にちゃんと見てるんですね」

「理由、聞いてもいい?」

「東京でナメられないにするため。です」

「本当?」

「本当です」

 天気ちゃんはちょっと悲しそうに、安心したように微笑んだ。

「そっか。天気ちゃんの目指してる大学は怖い所なんだね」

俺がそう言うと、彼女は苦笑した。

「すみません。それ、嘘です」

「それってどれ?」

「オープンスクールに行く気、無いです。あと、受験生でもありません」

天気ちゃんには、驚かされてばかりだ。

「天気ちゃん、嘘つくの上手いね」

「それ、褒めてます?」

 俺は顔に出ないように、ちょっと窓を見た。

 ギャルは怖い。これは偏見だった。でもやっぱり、天気ちゃんは怖い。

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