あだ名

『ウクレレ少女』

 2022年放送のアニメーション作品。

 高校1年生、身長100センチ、存在感0の空気ちゃんこと、『佐藤 空』はひょんなことから、バンドでギターを演奏することに。しかし、ギターを演奏するには、彼女は小さすぎた。苦肉の策でウクレレを演奏するが、これが意外と評判になり……!?

 と、以上が『ウクレレ少女』のあらましだ。


 まさかギャルの口からそんなマイナーアニメを聞くことになるとは。驚きが隠せない。

「なぜ、ですか?」

「だって、スマホケースが」

 そういえば、そうだ。俺のスマホケースには『空気ちゃん』がプリントされている。

「えっと、あなたも『ウクレレ少女』、好きなの?」

「はい!大好きです!」

ギャルは自分でも思っていたより、声を出してしまったようだ。周りが、ざわついているのに気が付くと、おずおずと肩を窄め、俺の隣に座った。

 それから、お互い顔を見合わせ、笑った。


「最終回の文化祭ライブで、あの曲、持ってくるのはヤバイよね。最初は気づかなかったけど、歌詞もフルで聞くと、泣ける」

「そうですよね!私もあの曲好きです」

「まさかネットの世界以外で、『ウク女』トークできる日が来るなんて」

「私のクラスメイトも、みんな見てないんです。本当に、人生半分、損してますよ」

思いの外、ギャルとのウク女トークは盛り上がった。

「今更だけど、名前って聞いていい?」

「うーん。ウク女仲間といえど、今日会った人には教えられませんね」

意外としっかりしている。

「まあ。それもそっか。じゃあ、なんて呼べばいい?」

「天気ちゃんで、お願いします」

どうして?と聞こうとして、やめた。ウク女の最終回で流れた曲に掛けているのだろう。彼女の満足そうな顔が物語っている。

「分かったよ」

「さすが。ところで、私はおじさんをなんて呼べばいいですか?」

お、おじさん。まだ、俺、23歳なのに。少し悲しい。

「ウク女仲間といえど、今日あった人には教えられないな」

本当は教えても良かったが、少し意地悪をしてみることにした。

「そうですか。では、なんて呼べばいいでしょう?」

「そうだな〜」

え、思いつかない。彼女がやっていたのは、陽キャの高度な遊びだったことに気づいた。

 最初こそ、嬉しいそうに待っていた天気ちゃんだったが、突然、冷めた顔をして、スマホを取り出しながら、言った。

「おじさんでいいですよね?」

俺は頷くことしか出来なかった。

 

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