旅の始まり

 俺はただ、新幹線の窓から見える景色を眺めている。こうして生まれ育った街を見下ろしていると、気分がいい。俺を縛ってきた街がこんなに小さかったとは。

 車内は子連れが多かった。夏休みの帰省シーズンだからだろう。時々、子どもが発狂する。不快だった。だが、全てを捨てた今の開放感と比べたら、大した事ではない。

 俺はこれから『運命の人』を探しに旅に出る。


 しばらくすると、隣に女がやって来た。

「ここ、いいですか?」

その女は絵に描いたようなギャルだった。長身で、金髪。ショルダーバックの紐部分も金色の鎖でできている。服はどぎついピンクで、ノースリーブだ。ダメージジーンズはソワソワしてしまうほど、大きな穴が空き、その生脚が見えている。

「もちろん」

 俺は作り笑いをして、言う。女は小さくお辞儀し、座った。

 見かけによらず、礼儀正しい。

 ふと、『もしかしたら、この女が運命の人かもしれない』と思った。

 話しかけるのは躊躇われる。やはり、ギャルは怖い。でも、このまま何も変わらない平々凡々な人生を過ごすほうが、よっぽど怖い。

「これから、どこに行かれるので――」

「話しかけないで。車掌さん、呼びますよ」

 やっぱりな〜。そうだと思ったよ。そんなにうまくいくわけ無いって。

 俺はテーブルに置いてあったペットボトルを手に取って、キャップを開けた。そして、一気に飲み干す。

 飲み終わってから隣を見ると、女はこっちの様子を気に留めず、スマホをいじっていた。ネイルが画面に当たって、かつかつと音がする。

 その横顔を見ると、意外に整っていた。目は大きく、パチっとしていて、正直、可愛い。詳しくはないが、その可愛さはメイクのせいだけではないだろう。それに胸も中々……

 女の黒目がこちらに向いているのに、気が付いた。

「なんですか?」

「ええっと、トイレに行きたくて」

 女はしばらく、疑いの眼差しで俺を見ていた。しかし、組んでいた脚を直し、道を開けてくれた。

「ありがとうございます」

女は答えなかった。

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