運命の人

@tyoudoiioyu

現在

 ここはアメリカ。夕方のスラム街。酔った男達の罵声に紛れて、小さいウクレレの音がした。どうやら、この路地の奥からのようだ。

「ねえ、この奥からウクレレの音がしない?」

「俺は聞こえないね」

「絶対、いるって。行ってみましょう」

「まぁ、そうだな。本当に助けを必要としてるやつは助けにくいところにいるもんさ」

「そういう人を助けるのが私達の仕事でしょ?」

「そのとおり。だが、自分の身は自分で守れよ。助けを必要としてるやつは大抵、クスリをやってるもんさ」

「そのジョーク、笑えないわ」

 私達は護身用のピストルを握り、奥に進む。コンクリートや煉瓦で出来た不揃いの壁にはド派手な色で下品な言葉が描かれていた。生ごみ、排泄物、吐瀉物の混じった刺激臭が、進むほど強くなる。それに伴って、ウクレレの音も大きくなっている気がする。

 ようやく見つけたウクレレの主はフードを目深に被り、煉瓦の壁に寄り掛かりながら、ゆっくりと手を動かし続けている。私はピストルを仕舞って、彼に近づく。

「迂闊だぞ」

私は相棒を無視して、彼の近くにしゃがんだ。

「いい曲だね。なんていうの?」

彼は演奏していた手を止め、突然、私の頬を平手打ちした。

「おい!」

「大丈夫だから。本当に」

彼の平手は、全く痛くなかった。おそらく、ろくに食べていないのだろう。彼はそのまま動かなくなった。

「まずい。この人が脱水症状が出てる」

「本当だ。手が熱すぎる」

 私は彼の手からウクレレをもぎ取り、ショルダーバックの中に仕舞った。夕方の路地は誰がいるか分からないから、通りまで男性を運ぶことにした。相棒は両足、私は両手を持って、路地の外まで彼を運ぶ。もちろん、人通りが多い道が安全というわけではないが。

 男性を運びながら見上げると、空にはうっすら月が出ている。いつも通り、夕焼けは美しい。こんなに苦しんでる人がいるのに。

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