第10話 感謝

 正座継続中。


「まず、私に憑りついたことについて色々言いたいことはあるんだけど」


 そりゃそうですよね。


 オタクに憑りつかれたら嫌ですよね。


 にしても、やっぱり美人さんだなあ。


 至近距離で見上げるのもよきです。


「なんか余計なこと考えてない?」


「あっ、すみません」


 バレた。


 凄いね、鞠っち。


 エスパーなんですかね。


「話を戻すけど」


「はい」


「なんというか。和泉いずみちゃんが死んでしまったのは残念だよ」


「あぁ、ありがとうございま……え、私のこと覚えててくれたんですか!?」


 ビックリしすぎて大きな声が出てしまった。


「当然。ファンが少ないんだから」


「あー」


 嬉しいような悲しいような。


「毎週来てくれてたし。そりゃ覚えるっての」


「えへへ」


 やっぱり嬉しいです。


 推しに認知されて、名前を呼んでもらえて幸せだなあ。


「あと」


 先ほどまで少し険しい顔をしていた鞠っちは表情をやわらげ、


「あのねっとりキモ男、撃退してくれてありがとう」


 わぁお。


 呼び方一緒だったことに感激。


 じゃなくて。


「あっ、見てたんですか」


「見てたよ」


 そっか。


 でも、


「正確に言うと、退治したのは私じゃないです」


「というと?」


 首を傾げた鞠っち。


 うわぁお、あざとい。


 可愛い。


 キョトンとした顔つきが素晴らしい。


 おっと、見蕩れている場合じゃない。


「あの路地に地縛霊さんがいたんですよ。その方に、押しつけてきました」


「……そう。どちらにしろ、貴女が助けてくれなかったら私は襲われていたと思う。感謝の気持ちは変わらないよ」


「おっふ」


 推しからの感謝。


 万歳。


 最高かよ。


「前にも、突き飛ばされた私を助けてくれた。本当にありがとう」


「いやいやいや、鞠っちを守るのが私の使命なんで」


 謙遜しながらも心の中は有頂天。


 今すぐ天国に逝けそうです。


 そんあ気配は微塵もありませんが。


 一体どうやったら成仏できるんでしょうね?


 んー、成仏したいかしたくないか、って聞かれたら。


 したくないな。


 まだまだ鞠っちの傍にいたいな。


 思考が彼方へぶっ飛んでいる私に、


「提案があるんだけど」


 鞠っちは美しく微笑みながら言った。


「これからも私を守ってくれないかな?」


「はい!?」


 え、今なんて言った?


 これからも私を守ってくれないかな。


 うん、え?


「えっと……」


 微笑む貴女は美しい。


 じゃない。


「気持ち悪くないんですか」


 普通憑りつかれたら嫌な気分になると思う。


「気持ち悪くないよ。だって和泉ちゃんだからね」


「えーっと」


 理由になってないような。


 私だから?


「どういうことですか」


 ハッキリ聞くしかない。


 考えてもわからないし。


 鞠っちはスッとソファをおりて、私と目線を合わせる。


「私ね、ずっと和泉ちゃんのことが好きだったんだ」


「はい!?」


 今日いちの声が出た私に、キラキラ輝くスマイルの鞠っち。


 リビングは一瞬にしてカオスな空気に包まれたのだった。

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