第8話 VSストーカー

「んー……」


 どんどん距離を詰めてくるキモ男。


 ひとけのない道。


 こういう日に限って、車は全然通らない。


 競歩みたいな速さで歩く鞠っちを上回るスピードで追いかけて来るアイツ。


「絶対なにかするじゃん」


 頭の中に危険アラートが響き渡る。


 突然、鞠っちが足を止めた。


 振り返る彼女の表情は、恐怖が刻まれていた。


「鞠ちゃん」


 二人の距離は二メートルを切っている。


 うげぇ。


 声までねっとり。


 キモすぎる。


「鞠ちゃん」


 口角を上げてニヤリと笑っているのが、外灯に照らされてわかる。


 もう一度名前を呼ばれたとき、鞠っちは走り出した。


 そりゃそうだ。


 怖いもん。


 キモ男は同じように走り出した。


「あちゃー」


 私も走り出したけど、アイツ、中々足が速い。


 どうしよう、どうしよう。


 考えろ。


 このままだと鞠っちが襲われる。


 そのとき、暗く細い路地が目についた。


「あっ」


 思いついた。


 あそこに引っ張り込めばいいんじゃない?


 できるかどうかわかんないけど、前鞠っちを掴んで交通事故を阻止できたし。


「よっしゃ、やってみますか」


 彼女の背後から離れ、スッと路地の手前に移動する。


「来た」


 タイミング見計らって、


「えいっ」


 キモ男の手首を掴む。


「掴めた!」


 間髪入れず路地に引き込む。


「ひっ」


 男は小さな悲鳴を上げた。


 パニックになってるみたい。


 ですよねえ。


 見えない存在に襲われたら恐怖しかない。


 わかります。


「てか、やっぱりアンタにも私が視えてないんだな」


 うーん。どうしようか。


 視えていたら、もっと怖がらせることができるのに。


 取り敢えず男を外灯が一つもない路地の奥へ引きずっていると、


「おん?」


 脚がない。


 腹部は血で染まっている、黒髪の女性がいた。


 心なしか空気が淀んでいる気がする。


「わっしょい!」


 歓喜。


 探し求めていた幽霊発見!


「ひっ」


 今度は大きな悲鳴をあげた男。


 あの幽霊は視えているみたい。


 なんで私は視えないんだよっ。


 おかしいだろ。


 それは置いといて、


「あのー」


 幽霊女性に話かけてみる。


 話が通じなかったらどうしようもない。


「はい」


 あっ、返事がありました。


 ラッキー。


 この出会いに感謝。


「こいつ、いりますか?」


「……」


 真顔で彼女はじっとこちらを見つめてくる。


 男は腰を抜かしているのか、動こうとしない。


「私には手に負えないので、憑りつくなり呪うなりしてもらえると助かるんですけど」


 よいしょっと、手首を掴んだまま彼女に近づく。


 こんなところにいるってことは、


「貴女、ストーカーか誰かに襲われたんですか?」


「はい」


 素直に返事してくれるな。


 いい幽霊さんだ。


「こいつ、ストーカー男なんです」


 そう言った途端、彼女の表情が怒りに染まった。


「いりますか?」


「ください」


 即答!


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 謎に感謝された。


「やっ、やめろ! 近づいてくんな!」


 叫んだところで助けはこない。


 幽霊女さんが


「キャハハハハハハ」


 クレイジーな笑いをあげたところで私は退散する。


「んじゃあ、お願いしまーす」


 彼女に頭を下げ鞠っちを追いかける。


「にしても、掴めるかなぁ半信半疑だったけど、できたわ。まるでホラー映画みたいなことを自分がするようになるとは思わなかったな」

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