第7話 危険人物
幽霊になって一週間が経ちました。
故郷では私の葬儀がとっくに行われていることでしょう。
お母さん、お父さん、育ててくれてありがとう。
なんて、まるで遠くにいるような言い方をしたけれど。
実家は埼玉だし。
割とすぐに会いに行こうと思えば行ける。
向こうは私を認識できないと思いますが。
さてさて、私はといえば。
ずーっと鞠っちにべったり。
そりゃそう。
憑りついてるんだもん。
レッスン、バラエティー番組の収録、雑誌の撮影などなど。
生きていたら見られなかったであろう姿を見られて、毎日ハッピーでした。
死んだことに感謝するなんて頭イカれてるとは思う。
でもいいじゃん。
めそめそしていたら悪霊になりそうだし。
あっ、相変わらず幽霊には出会えてません。
なんで!?
都会はうるさいからいないの?
そんなわけないよね。
事件も事故も沢山起こっているんだから。
地縛霊なり悪霊なりいるはずなのになあ。
いや、そういう類の話が通じなさそうな方々には会いたくない。
なんか呪われそうじゃん……呪われたところで、死んでるからどうということもないのだけれど。
「お疲れ様でした」
はい、鞠っちお疲れ様。
レッスンを終えた彼女は一番にスタジオを出る。
他のメンバーは、今日ご飯を食べに行くみたいだけど。
ハブられてるわけじゃないよ。
鞠っちは、自ら線を引いている。
自分が一緒に行ったら、ご飯会の空気が最悪になるのをわかっているから。
彼女の活躍に嫉妬をして嫌っている二人のメンバーが原因で。
本当は、今年入ったばかりの
難しねえ、人間関係って。
どうにかしてあげたいけど、私にはなにもできない。
なんせ幽霊ですから。
てへぺろ。
そんなことを考えながら、夜道を歩く鞠っちの周囲に気を配っていた。
やんわりと嫌な予感がするんだよねー。
根拠はない。
「ん?」
鞠っちが振り返る。
目が合ったような気がするのは、気のせい。
彼女は霊感がないから。
私も振り返ると、
「うわぁ」
嫌な予感的中。
握手会に来るたびに、鞠っちが顔を引き攣らせていたあのねっちこキモ男がいた。
いつも通り全身黒で。
数メートル距離をとって鞠っちの後をつけている。
ストーカーじゃん。
え、いつからいたの。
この一週間で初めて見ましたけど。
もしかして、毎日鞠っちに付きまとってた?
「チッ」
思わず舌打ち。
だとしたら、気がつかなかった私は大馬鹿者だ。
アイツが鞠っちを車道に突き飛ばすのを見たと言うのに。
足を止めていた鞠っちは、再び歩き出す。
早歩きで。
彼女について行きながら後ろを振り返ると、キモ男も早歩きになっていた。
「きっしょ」
どうしよう。
少しずつ距離を詰めて来るキモ男をどうすべきか考えながら、私はため息をついた。
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