第6話 推しの家に入っちゃった

 憑りついたおかげで、なんと、なんとですよ。


 推しの家に入ってしまいました!


 生きていたら不法侵入。


 即逮捕案件。


 でも、私は幽霊。


 最高ですね。


 死んでよかったと思います。


 もう二度と推しと握手をしたり会話したり、チェキを撮ったりできないのが残念だけどね。


 これはこれで楽しい幽霊ライフを送れそう。


「ここが鞠っちの部屋かぁ」


 彼女が洗面所に行っている間、勝手に徘徊。


「意外だな」


 カッコイイ路線の鞠っち。


 クールな雰囲気が特徴的な王子様。


 部屋もそんな感じなのかと思えば、そうじゃない。


「めっちゃ可愛い」


 リビングのソファや棚に沢山並べられた色とりどりのぬいぐるみ。


「ギャップ萌えぇ」


 もうね、胸がキュンキュンしちゃう!


 ときめきが止まりません。


 生きていたら心臓が悲鳴を上げて死んでいたと思います。


 既に死んでいますが。


 ぬいぐるみをじっくり眺めていたら、


「ただいま」


 背後から声をかけられてギョッとした。


 まさか、私に向かって?


 鞠っちはソファの上の、特別大きなぬいぐるみを抱きしめた。


「そっちかーい」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「でも、可愛いからOK」


 本人に聞こえないのをいいことに、拍手。


 心の中でも拍手。


 その後は鞠っちの食事を真正面から見守って、お風呂から上がって来た彼女のパジャマ姿にキュン死にしそうになって。


 既に死んでいてよかったと何度も思いました。


 あっ、お風呂は覗いてないからね。


 倫理観働いてるから。


 なんて自分を正当化しているけれど、ねちっこいキモ男のことを悪く言えないな。


 私も十分キモいわ。


 推しの部屋を歩き回り、顔をガン見する。


 変態の素質ある。


「生きているうちに露見しなくてよかった」


 と、鞠っちの寝顔を見つめながら思ってる。なう。

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