第4話 ウルトラスーパーレア

「うぉっ、やっぱり幽霊だ」


 鞠っちの握手の列に並ぶファンの横を通り過ぎて、「もしや、机を通り抜けられるんじゃない?」と思ってやってみたらできました。


 一回だけじゃなくて何回もやりました。


 並んでいるみんなのカラダを通り抜けてみようとも思いましたが、やめました。


 なんか悪影響がありそうなので。


 幽霊なのは確定事項だし握手をできないことは残念。


 自分では落ち込んでいるつもりだったんだけどね。


 心のどっかで楽しんでます。


 だって私は今、


「鞠っちの後姿をずっと見られる……尊い」


 生きている間は正面しか見られませんでしたからね。


 ウルトラスーパーレアです。


「うなじ、綺麗だなあ」


 まじまじと見つめても変人扱いされない。


 最高かよ。


 というか、


「ここにいる人、みんな私のこと視えてないんだなあ」


 スタッフさんもファンの人も、私のことを視えていない様子。


 霊感ある人って少ないんだね。


 そういえば私も生きている間に、霊感もった人に出会ったことないわ。


「鞠っちはどうなんだろう」


 後ろにピッタリくっついてみる。


「今日も来てくれてありがとう」


 うん、無反応。


 多分だけど鞠っちも霊感なし。


「よしっ」


 今度は机をすり抜けず、真ん中辺りで留まる。


「鞠っちの横顔をこんな近くで見られるなんて」


 尊い。


 美しい。


 言葉にできない。


「美人さんだなあ。こりゃ人気出るわ」


 グループとしては人気も知名度もない。


 けれど、鞠っち単体では抜群の知名度を誇っている。


 167cm、脚がめっちゃ長い彼女はモデルとして沢山の雑誌の表紙を飾っている。


 テレビ番組にも出演している。


 鞠っち担としてはメディアの露出が多くて嬉しいんですけどね。


 一部の他担は面白くないみたいで、SNSに誹謗中傷を書きまくっている。


 ねちっこいったらありゃしない。


 あと、恵美っち、純ちゃんが嫉妬をしてるって噂がある。


 たしかに動画投稿サイトの企画ではほとんど会話がない。


 切り抜き動画では、二人が鞠っちに鋭い視線を向けている場面がいくつもアップされている。


 気持ちはわからなくもない。


 一人だけ売れたら面白くないよね。


 そんなことを考えながら鞠っちの横顔をガン見していたら、


「あっ」


 彼女は小さく呟いた。


 ん? 不思議に思って鞠っちの視線の先を見る。


 そこにいたのは、全身黒の男性。


 身長は鞠っちより少し低いぐらい。


「今日も来てくれたんですね」


 さっきまでのクールなアイドルスマイルはどこへやら。


 いや、ちゃんと笑ってるよ。


 口角が引き攣っていること以外は、いつも通り……じゃないわ。


 握手のために差し出した手が少し震えている。


 あっ、こいつライブで見たことあるわ。


 ファンの数が少ないからさ、ライブに来る人の顔は大体覚えちゃうんだよね。


 いっつも端っこの方を陣取っている人。


「いつも見てるからね」


 うわぁお。


 男性はそう言って鞠っちの手をギュッと握り、列の最後尾に並んだ。


 今の発言ねっとりしてて気持ち悪かったな。


「はぁ」


 鞠っちは小さくため息をついた。


 こんな彼女、初めて見た。


 アイツ要注意人物だな。


「決めた!」


 全然成仏する気配がない私は、鞠っちに憑りつくことを決めた。


 ずっと傍にいれば、なにかあったときに助けられるでしょ?


 幽霊の私になにができるのか聞かれたら……うん、わからないです。

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