第2話 幽霊になったのは

 最悪だ。


 頭を抱える。


 幽霊って脚がないイメージだったんだけど、あるんだね。


「マジですか……」


 すんなり成仏させてもらえなかった理由はなんだろう。


 未練があるってことなのかな。


「未練、未練、未練」


 パニックになった頭を整理することができない。


 その時、会場の照明が落とされ、ステージの照明だけが眩しく光る。


 周りのファンたちが大きな声で、


まりぃ!」


「りこたん!」


恵美えみぃ!」


じゅん!」


陽菜ひなぁ!」


芽衣めいたん!」


綾菜あやなぁ!」


 メンバーたちの声を呼ぶ。


 声援に応えるように現れたメンバーたち。


「あっ」


 ベリーショート。


 前髪を左側に流して、赤色のメッシュが入っている推しの姿を見てわかった。


「これだ」


 私がすんなりあの世へ逝けなかった理由。


 幽霊になってしまった訳。


「鞠っち」


 彼女だ。


 推しへの愛は誰にも負けない自信がある。


 彼女に会うために仕事を頑張ったし、生きていたようなもの。


 だから、鞠っちに会えないまま死んでしまった私は。


「幽霊になってでも会いたかったんだなあ」


 ということは。


 私たちに手を振って、立ち位置に並ぶ鞠っちを見つめながら考える。


「このライブが終わったら、未練がなくなって成仏しちゃうのかな」


 多分そうだろう。


 いつも通りキラキラ輝く推し。


 女性にしては低い声の推し。


 誰よりも大好きな推しの姿を目に焼きつける。


「さよなら、鞠っち。大好きだったよ」


 愛の言葉は誰にも聞こえることなく、歓声と歌声にかき消された。

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