第3話

「良かった……もうムリって思ってたけど……何とかなったぁ……」


クモを追っ払った(向こうから逃げていった)事実に安心してペタンとその場に座り込んだ。


「はぁ……あんなクモ。王国の図書館の図鑑には載ってなかったよね。捕まえたらそれはそれでお金になったのかな……」


新種の魔物だし新情報の報酬はもらえたかもしれない。うう。あの氷爆弾が失敗作じゃなくて成功品だったらなぁ、でも成功品だったら今日までにとっくに売り飛ばしてるだろうし。私の杖さばき(ぶんぶん振り回すだけ)がもう少し上手かったらなぁ

何にせよ。もう考えても遅い。私に残ったのは脱力感と空腹感だけだ。


「すごーい! あなたすごいねー!」

「……え?」


急に聞こえた声にびっくりして周りを見回す。


「誰もいない。幻聴かな」

「そんな訳ないよ! ほらこっちこっち!」

「えっ……? わっ!」


言われるまま上を見上げると、小さい女の子が宙に浮かんでいた。

背中に透明で大きな羽がある。


「やっと気付いてくれたー! あなた私のこと忘れてたでしょ?」

「ご、ごめん。えーと、あなたは……?」

「ミリアよっ。あなたはリリスね!」


なんで私の名前を知ってるんだろう。その疑問を口にする前にその女の子は私の前に降り立った。


「私の名前を……まさか!?」

「ヘンなこと考えないの! 杖に書いてあったわよ! あなたの名前!」


その子はポンポンと小さい手で地面に転がっていた私の杖を叩いた。


「そういやいつなくしちゃっても良いように名前を彫っておいたんだっけ」

「紛失対策に名前を書くって……人間の世界だと、それでなくしても帰ってきたりするの?」

「もちろん王国の外でなくしたら帰ってこないけど、街中なら割とそれなりに帰って来るんだよ? 十パーセントくらいの確率で」

「それはもう帰って来ることはないって言って良いんじゃないかしら……」


呆れた顔をしたその子は、杖の上に乗って飛び上がった。ヒュンっと辺りを軽く飛んでいる


「とにかくっ助けてくれてありがとうっリリスっ!」

「う、うんっ。あなたって……」

「あなたじゃない。ミリア! 私はミリア!」

「ごめん。ミリアって妖精……なの?」

「そうだけど。それがどうしたの? 変な表情しちゃって」


ミリアが私の周りをくるくると飛び回っている。

そりゃあそうだよ。妖精なんて滅多に見られる種族じゃないんだ。見たとしても人間とは関わりたくはないのかすぐに姿を消してしまう。

こうやって会話できているだけで奇跡のようなものだよ。


「えへへ。助けてくれてありがとうっリリス。」

「ひゃっ」


ミリアが私の目の前に飛んできた。よく見ると顔が良い。三十センチくらいの大きさなのに顔は人間とあんまり変わらないんだなぁ


「大したことはしてないよ。私、ただクモを追い払っただけだよ?」

「そんなことないわよっ。なにあのアイテムっ!? 魔法でもないのに何で氷ができたのっ? あんなの見たことないって!」

「あー……あれはあんまり掘り下げてほしくないんだけどなぁ」

「えー何でよ? すごいアイテムなんでしょ?」


ミリアが言っているのって、私がクモに投げた氷爆弾だよね……すごくなんかないよアレ。あれを店頭に並べようものなら道行く人の十人中十一人は爆笑するよ。パン屋が店頭にステーキとかラーメンを置くような物だって


「リリスがあのアイテムを投げたら氷がバーンってなったじゃない!」

「あはは……まあ私は錬金術師だし? アイテムくらいは持ってるよ、失敗作ダケドネ……」

「何で最後カタコトなのよこっちを見なさいよ……っていうかアレで失敗作なの!?」


ミリアがぐいっと私の近くまで寄ってきた。良い匂い……


「本当本当。成功品ならクモの氷漬けができてたんだよ」

「氷漬け!? あのでっかいクモをまるまる氷漬けぇ!?」

「うん。さっきのクモは中途半端にしか凍らなかったでしょ?」

「そ、それはそうだったわね」


ミリアは信じられないと言いたげな顔を向けてきた。でも本当なんだよね。今ここで調合ができたら完璧な成功品の氷爆弾を作って見せてあげたい。

くぅー調合ができたらなー! 私の腕前を振るえたんだけどなー! ざーんねんだなぁー! あっはっは!!

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