第2話
「きゃぁあああっっっ!!!」
「うひゃああっ!?」
唐突に聞こえた叫び声に私はびくっと痙攣した。背筋がピンと伸びる。なっ何っ!?
せっかく木々のガサガサって音にも慣れてきたってのに、こんなに大きな声出されたらびっくりするじゃんかぁ!
「ま、魔物だったらどうしよう……」
私は杖を握りしめてゆっくりと声が聞こえた方向に歩いてみる。そうしたら……
「グルルルル……」
「ひ、ひぃ……!」
大きなクモがいた。こっちに背中を見せて何かを追い詰めるようにゆっくりと足を動かしている。
「た、助けて……!」
「キュルルルッッ……!!」
「あれは……誰? 誰かいるの?」
明らかに誰かが助けを求めている。もちろん原因はあの大きなクモなのは分かるよ。
でも肝心の助けを求めている声の主が見当たらない。クモよりも小さいってことは子どもかな。
いやこの際なんでも良いかっ助けないと!
「こらー! やめなさーい!」
「ググッ!?」
私は勢いよく飛び出した。クモが振り返る。
「何か知らないけど悪い事してるんでしょ? わっ私が相手になるからっ」
「キュルルッ」
うげ……あのクモよだれ垂らしてる。気持ち悪いぃぃぃ! 思っていたよりも大きいし!
握りしめた杖に力を入れて、私は思いっきり左右に振った。
「えいっ! えいっっ!」
「グルルッ」
「このっ……! あっちいけー!」
「グルルルルッ!! グルルルッ!!」
どうしよう。私の懸命な杖さばきにも全然引かないよコイツ! 今まで出会った大体の魔物ならこれで逃げ出すのにっ。ぶんぶんと杖を振り回すことにもう疲れてきたよ。
「くっこれは使いたくないんだけど……キリがないならしょうがない!」
私は手を腰に回して、ポーチに入っているアイテムに手を伸ばした。それを取り出して握りしめる
クモは今にも私に飛び掛かってきそうだ。あんなのに噛まれたりツメでひっかかれたりしてケガなんてしたら大変だ。今日の食費どころか治療費の心配をしなきゃいけなくなるよっ!
「くらえー! 私の命綱ー!」
「グギャッ!?」
私が投げたアイテムがクモに当たると、ボンッと軽い音が響いた。
氷の爆弾。十回調合して一回成功すれば良いレベルの代物だ。もちろん今使ったのは失敗作だ、へっ……どうせ私は調合ヘタだよ。笑えよ。
「ギャギャッ……!!」
クモの身体のあちこちが中途半端に凍っている。動きを軽く止めるには十分だけど倒せるには至ってない。
アイテムを放り投げたまま硬直していた私は、やっとその事実を思い出した。
「……はっ!? そうだっ!」
今更ながら私は気付いた。あれ魔物を倒すアイテムじゃなくて動きを止めている間に逃げる用のアイテムだった!
「えーい! あっちいけあっちいけー!」
私は中途半端に凍ったクモを目掛けて杖で叩きまくった。クモの体は思っていたよりも固くて叩くたびにじーんと手がしびれる。それでも夢中で叩きまくった。
「このっ! このぉ! どっかいっちゃえー!!」
「ウギャッ! ギギャッ!」
繰り返す杖の殴打。良いか王国中の子どもたちよ、これが錬金術師(の悪い手本)だ。よく見ておけ?
「ギギギャーーー!」
「ぜえ……ぜえ……」
クモにこれ以上構うと面倒くさい女と思われたのか、凍った体を引きずって私の元から逃げていった。茂みの向こうに消えたクモを見て私は肩で息をする。
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